伸ばした手を (ページ38)

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No.38 ページ38

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辰哉くんにメールを送ってから少しして携帯使用時間が来てしまったから電源を落とし看護師さんに預けてしまったけれど

次の日、受け取った携帯には使用時間から少し過ぎたくらいの時間に返事が帰ってきていて。

─ 連絡ありがとう。Aがアイドル続けてくれるって聞けて嬉しい。

退院の日が決まったら教えてね。

リハビリ頑張れ。 ─

それから時折辰哉くんからメールがくるようになり、あっという間に退院の日。

秀明くんは急な仕事が入ったからと前日にある程度荷物を持って行ってくれたから、手にもっているのは小さいショルダーバッグともはや相棒と化しているこのクマのぬいぐるみだけ。

お世話になった看護師さんたちに付き添われながら病院の出口へ。

このドアをくぐれば、以前のように戻れるだろうか………

以前のように。

もう少しでドアが開くというところで足が竦んでしまう。そのもう少し、がとてつもない距離に感じ腕に抱えていたぬいぐるみをキツく抱きしめた。

脳裏をよぎる大地の顔。

そして冷ややかな沢山の視線と鋭い言葉たち。

慣れきってしまった時は麻痺していて大抵の事では胸が痛むだなんてことは無かったけど、回復した心はその痛みでさえも思い出させてしまう。

そんな私を見透かしたかのように、看護婦さんが背中に手を添え、大丈夫よ。と軽く押してくれた。

一歩踏み出してしまえばあっさりと開いたガラス張りのドア。

二、三歩進めば冷たい風が頬を撫でていく

ここに入った時は夏だったのに。

それだけの時間をこの場所で過ごしたんだなと実感した。