伸ばした手を (ページ29)

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No.29 ページ29

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着信音がなっても微動だにしないふっかを照が小突いて電話に出ろと促す。

モゾモゾとスマホを取り出したふっかは相手をロクに見ずに耳に当て始めた。

深「はい、深澤です……え……はい！っ…あ、そうですよね…はい。分かりました。」

項垂れていたはずのふっかが背筋をピンと伸ばし驚いた顔のまま受け応えをするものだから全員の視線がふっかに集まる。

深「いえ、俺は…なにも…連絡ありがとうございます。いえ、失礼します…」

渡「誰だった？」

ふっかは大きく息を吐き出すとゆっくり続けた。

深「……滝沢くんだった。内容はAことで…極度の栄養失調からくる貧血、意識障害に睡眠障害。まだ目は覚めてないけど、2、3日もすれば目を覚ますだろうって。」

俺と同じで食が細いなとは思っていたけれど、そこまで至ってしまったのはきっと精神的な要因も大きいのだろう。

阿「病院は？どこに入院してるの？」

身を乗り出すように尋ねた阿部ちゃんにふっかは首を横に振った

深「精神状態が落ち着くまでは、静かに過ごさせたいから病院名は教えられないって……」

岩「まあ、そうだろうな」

渡「俺、陽菜と茉莉に連絡いれとく。」

命に別状が無いということに少し胸を撫で下ろす。

渡「あいつ、戻ってくるよな。」

ポツリと零した俺の独り言を拾うかのように照は「戻ってくるでしょ。」と

さも、当たり前のように返してきた。

佐「まあ、根性半端ないもんな。」

スマホを握りしめふっかは俯きながら少し震えた声で

深「そういえば、天職だって言ってたっけ……。」

目を赤くして、阿部ちゃんは昔を思い出すように優しく目を細めた。

渡「あいつが帰ってくるのを、俺たちは待ってようぜ。」

静かにそう告げれば全員の首が縦に揺れる。

A待ってるよ。

お前が帰ってくるその日を。