伸ばした手を (ページ12)

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No.12 ページ12

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テーブルに置いた台本たちも無くなっていき、いよいよ明日はＪｒ.総出演のLIVEの日。

新しいオファーもあった。
オーディションの話もあった。

単独表紙や写真集…私を必要としてくれている声を何度もお断りした。

さすがに自分でももう限界だと感じ取っていた。

振りを頭に入れるのも歌うのもツラい。

唯一喉を通っていたゼリーですらここ最近喉を通らない。

ぼんやりとソファに座っていればスマホのディスプレイに懐かしい名前が見えた。

─ 瑞希ちゃん ─

秀明くんの紹介であった私の前に大地とお付き合いしていた人。

同じ痛みをしる数少ない人。

だからなのか会ってすぐに仲良くなり、時折連絡を取っていた。

『瑞希ちゃん？』

瑞「Aちゃん、久しぶりだね。」

『お久しぶりです。今日はどうしたの？』

懐かしい声に口角が上がるのがわかった。

瑞「今度ね、結婚…するの。」

『うそ！おめでとうございます！お相手はこの前言ってた？』

瑞「そう、それでね？彼の意向で今度から現場復帰させて貰うことになって。」

『また瑞希ちゃんにメイクしてもらえる日が来るの？わぁ………嬉しい。』

瑞「アシスタントからだけどね？」

『それでも嬉しい！ね、いつから？』

瑞「急なんだけど明日、Aちゃんの出演するLIVEからなの。よろしくね？」

『俄然やる気出てきた！』

お互い笑い合い、それじゃまた明日ね…と、電話を切った。

私の空っぽになってしまった心と身体に少しだけ力が戻ってきた気がする。

『さて、頑張りますか……』

そう呟き、これが最後になるかも知れないと入念にストレッチを始めた。