君でなければ (ページ2)

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プロローグ２ページ2

YS「あの、だから、ううー、今、今の飛行機。
後ろ。はしっこ。絶対。
ありますか？」

なんで韓国便のカウンターに、韓国語話せる奴がいない？
トイレか？
しかも、そんな状況に相手もパニクっていて、俺の日本語では正確に伝わらない。
席だってどこでも良いんじゃないんだ。選ばないと、面倒なんだよ。
そして何より。
急いでいるんだ。

焦って、つい、声や手振りが大きくなる。
韓国語でグチも混ざる。

A「あの。なんでか知りませんが、この便の安全な席でどうしてもお帰りになりたいんですよね？トラブルですか？」

ハッとして後ろを振り向くと。
スーツ姿の女が韓国語で小声で話しかけてきた。
ヤバイ、バレた？

A「あ、驚かせてすみません。
私、航空会社で働く者です。
仕事でチケットの手配を担当しています。

今日は休暇でここにいるんですが、何とかできると思います。
任せてもらっていいですか？」

と、名刺を渡される。

YS「あ、ああ、じゃあお願いします」

と言うと、女はカウンターの日本人に何やら日本語でテキパキと指示を出してどこやらに電話をかけ、あっという間にチケットの手配をしてくれた。

そうそう、俺らが取るのはこういう席。
後方の端に位置して、人目につきにくい目立たない席。

A「はい、どうぞ。
あと15分で離陸ですから、急ぎますよ！
私もこの便に乗りますし、後ろの入り口までご案内いたしますから」

YS「あ、ありがとうございます」

ホッとする暇もなく、その女、いや女性の案内で、早足で歩き出す。

俺は歩きながら名刺に目を落とす。

「○○航空法人1課林 A」

そこにはそんな名前が書いてある。
林？韓国人か？
つい声をかけてしまった。

YS「あの、林、さん？は韓国人ですか？えっと、名前が、、、」

すると彼女は少ししてから、振り返って答える。

「あ、ああ。
いえ、これはハヤシと読んで、日本の苗字です。私は日本人ですよ。

まあ、韓国にも林さんってたくさんいらっしゃいますし、韓国語操ってこんな仕事してますから、その方が便利な時にはイム、と名乗ってしまうこともありますけど(^ ^)」

YS「そうですか」

なんだろう。
悪くはないが、特に美人でもなく。
普通すぎるほど普通な、仕事で俺に良くしてくれているだけの、彼女の振る舞いが。

俺の気持ちをやけに和ませた。

ま、しかし。
こんなこと思うのも。

今日の俺が、センチメンタルなせいだ。
それだけだ。