ポピーレッド ページ3
○YUTA
『お、いた』
「おはようございます」
『今日は寝れた？』
「…ちゃんと寝てますよ、毎日」
『迷子の時は寝てなかったけど』
練習室が並ぶ廊下の、小さな椅子に座るAは顔を上げて、少しだけ拗ねた顔をする。あの日Aはどこだと探していたドヨンがあまりにも慌てていたから、会場に来ていたファンの人たちにも迷子がバレて、Aを真ん中にして座っている写真まで撮られていた。
「あの日はちょっと、考え事してて」
『嫌なことでも聞いた？』
「……ここの人たちってこう、なんか、」
『うん？』
「嘘を見抜く能力とか持ってるんですか？」
『A限定でな』
頭を撫でたら、眉間に皺がぎゅっと集まる。俺たちがAを甘やかしてしまうのは昔からずっと同じなのに、Aだけが1人で大人になろうとする。それでも俺たちは、Aから目を離したくないのに。ぐしゃぐしゃになった髪を直していれば、前からマークが走ってくるのが見えた。
「どうしたの？」
「あっちにいなかったから」
「今日ちょっとここにいたい日で、」
「こういうところ、A好きじゃないじゃん」
いつの間にか目の前まで来ていたマークが、なんだか微妙な顔をしたAの顔をじっと見つめている。よく覚えてるねとマークに言いながら、Aはゆっくりと瞬きをした。
「ここがって言うわけじゃないんだけど」
『じゃあなんで？』
「…皆は練習してるのに、ここにいるわたしだけが取り残されてるみたいで嫌だったんですよ」
もう昔の話ですけどねと言ってAが立ち上がって、練習までには戻りますと走っていく後ろ姿を見ていたら、マークは椅子に腰を下ろした。Aが角を曲がるまで、マークがじっと見つめていることに、本人は気付いているんだろうか。
「…A、昔よくこういうところにいて、」
『俺らと一緒になる前？』
「うん、俺たちが練習を始めて、終わりまでずっと」
『それはなんか、体が痛くなりそうだけど』
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作者名：yom | 作成日時：2021年10月3日 16時
