ペーパームーン 3 (ページ19)

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そう言ってしまった自分が、どんな顔をしているかはわからない。でもヌナの動きが止まって、ロンジュンを見て、もう一度こっちを向いた。踏み込みすぎたかな。でもどこまでも隠しておけるほど、ヌナとは離れたくないと思った。

「誰かから聞いた？」

『電話してるとき、ちょうどヌナの名前が出たから』

偶然と言えば偶然なのかもしれないけれど、思っているよりも確証はあった。たまにヌナと電話をしているチョンロが、電話を切ったあと少し泣きそうな顔をしていることは、まだこの人には言わない方が良いんだろう。隣で寝ているロンジュンが、たまにヌナを見て、口にぎゅっと力を込めていることも。

『誰にも言わないよ』

「うん、ありがとう」

『もう少しヌナが生きやすくなったら良いね』

「でも今も、結構楽しいんだよ」

ロンジュンの目が開いて、気付いたヌナが頭を撫でた。こっちを向いて少しだけ眉に力が入ったから、きっと少し前から起きていたんだろう。

『ロンジュナ、練習行こう』

「Aヌナ、」

「ん？」

「…ううん、クッキーちょうだい」

「あ、練習に持って行って」

『ヌナの分無くなっちゃうよ』

「わたしはほら、これ食べなきゃ」

頑張ってねと手を振るヌナに、角を曲がるまで手を振り返していたら、ロンジュンが急に手を引っ張った。危うくクッキーを落としそうになりながら前を向いたら、さっきよりも険しい顔をしたロンジュンと目が合う。

『本当に誰にも言ってないよ』

「本当？」

『ヌナが困るようなことすると思う？』

「…ううん、ジェミナはしない」

簡単に離れた手に、少しだけロンジュンに握られていた跡がつく。ごめんと言って触れた手が、ヌナみたいに冷たかった。

「Aヌナ、楽しいって本当かな」

『俺たちが信じないで、誰が信じるの』

ヌナが昔とは違うように、自分たちも大人になろうとしている。それでも、にっこりと笑ったヌナの顔が、1番好きなのは、いつまでも変わらないでいて欲しい。練習室の扉を開きながら、ヌナのことを思い浮かべた。