水色の風 ページ9
○DOYOUNG
Aが俺たちの宿舎に引っ越して来た。そうは言っても同じ階に来ただけだけど、たまに練習室で顔を合わせて、気にかけていた頃よりずっと近くなる。宿舎に散らばっていたお菓子をかき集めてインターホンを鳴らせば、メガネをかけたAが、「オッパだ」と気の抜けた声を出した。
『俺だってわからないままドア開けたの？』
「あ、ごめんね」
まだ何も届いてないけど、と裸足で歩くAに着いていって、小さなテーブルにお菓子を乗せる。これ好きなやつ！と見せてくれる顔は、いつもより幼かった。
「オッパ何がいい？わたしはこれ食べたい」
『全部Aにあげるよ。あっちにまだあるから』
「わあ、やっぱりみんなで暮らすとたくさんあるんだね」
Aがたまに見せるこの顔は、テンや俺といる時によく見る顔で、テンはその顔が嫌いだと言っていた。無理に大人になろうとして、全てを捨てたような顔をして、実際その顔するのやめなとテンに言われた時、「今までずっとこうだったから」と言うAは、何を捨てなきゃいけなくて、本当は何を望んでいたんだろう。
「女の子達は宿舎別だったの？』
「あっちはあんまりお菓子食べないから』
『…俺がチョコとかあげるの迷惑だった？』
「ううん。オッパがくれるのは全部食べてたよ」
わたしのご褒美だったのと話すAに、何となくまだ子供でいて欲しいと思ってしまう。この世界はどうしようもないかもしれないけれど、無理に笑って彼女が全てを諦めないように。
「何か飲む？って言いたいんだけど、今何も無くて」
『今日どうするつもりだったの』
「お休みは寝る日になるんだよ」
『こっち来たら今たくさんご飯があるけど？』
「行ってもいいの？」
『もちろん。俺たちはメンバーなんだから』
そっと、Aの目に光が灯る。友達は居ると言っていたけれど、「あの子は自分のことを話そうとしないから」と、あの日女子達に手を引かれて言われた言葉が頭に残っていた。たくさんの人に囲まれていても、誰にも頼らなかったA。ひとつずつ伝えたら、まだ可愛い妹でいてくれるだろうか。
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yom(プロフ) - 花藤さん» とても綺麗な言葉で表現していただきありがとうございます…！頑張ります！ (2021年8月15日 11時) (
レス) id: 0ce65e6476 (このIDを非表示/違反報告)
花藤(プロフ) - 淡々とした描写の中にきらりと光るそれぞれの感情と、おだやかな余韻がとっても素敵だと思います。一気に拝見しました。更新とっても大変かと思いますが、応援しています。 (2021年8月15日 2時) (レス) id: d70a6e9ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：yom | 作成日時：2021年8月10日 18時
