パレットの上のオレンジ ページ29
○YUTA
Aがまだご飯を食べていないとドヨンが騒いだのが2時間前、こっちの宿舎に連れられて来て、隣に座ったドヨンがこれも食べて、これ美味しいからと(少しうるさいくらいに)言いながら、それにAが頷いてご飯を食べていたのが1時間と少し前。お腹いっぱいになったら眠くなったAがソファーで居眠りを始めて、俺が部屋に戻ったのは40分くらい前。喉が渇いたからキッチンに行って、起きていたAが電話を切って、俺と目を合わせたのが今だ。
「すみません、ちょっと寝てたみたいで」
『ううん、それは良いんだけど』
「…顔に何か付いてます？」
『Aって、中国語も話せたんだ？』
Aの目がぱちっと開かれて、同時に俺はもしかしたら変なことを言ったのかと思いながら、でも今の会話に変なところなんてあっだろうかと頭をフル回転させる。少し微妙な顔をしたAが手招きするから隣に座って、手に持ったままのグラスをテーブルに置いた。
「話せるというか…日常会話くらいは出来ると思います」
『今は誰と電話してたの？』
「チョンロです。あの子はわたしが話せるって知ってるので」
Aの目が、いつも弟たちと接している姉の目に変わる。あの子たちはいつもこんな感じでAに愛されているのだと思うと、少しだけ羨ましい。でもオッパと呼ばれるのもすごく嬉しいのだから、きっとないものねだりだと思うけれど。
『練習生のとき習ってた？』
「…この会社に入る前に、少しだけ話す機会があったので」
『すごいな。独学？』
「人間は、追い詰められたら意外と頑張れるみたいですよ」
そういえば、Aとは割と長い時間を過ごしている俺でも、Aがこの会社に入る前に何をしていて、どこにいたのかを知らなかった。随分と会社の上の人たちが目をかけて、自分たちの目の届くところにAを置いて、大切にしていたのにと思うことは数えきれないくらいあるけれど、上の人間の考えていることなんて、俺には理解できないんだろう。
『ウィンウィンは知らんの？Aが話せること』
「あの人はきっと、知ってて黙ってくれているんだと思います」
『…待って、俺って今、すごい秘密を聞いてる？』
「わたしはこの会社に入ってから生まれ変わったようなものなので、これを活かすか殺すかは会社次第ですね」
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yom(プロフ) - 花藤さん» とても綺麗な言葉で表現していただきありがとうございます…！頑張ります！ (2021年8月15日 11時) (
レス) id: 0ce65e6476 (このIDを非表示/違反報告)
花藤(プロフ) - 淡々とした描写の中にきらりと光るそれぞれの感情と、おだやかな余韻がとっても素敵だと思います。一気に拝見しました。更新とっても大変かと思いますが、応援しています。 (2021年8月15日 2時) (レス) id: d70a6e9ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：yom | 作成日時：2021年8月10日 18時
