はじまり ページ2
○
『……はい、わたしですけど』
練習室に行こうと足を進めていたのに、「Aさんですか？」と声をかけられて後ろを振り返れば、顔と名前だけはよく見たことのある人が立っていた。
声をかけてきた人が近付いてくるから咄嗟に後ろに下がれば、「A〜」と聞き慣れた声が耳に届く。
『…あ、テンオッパ？』
「そうだよ〜その人怖くないよ」
「その人って言わないでよ…」
「あはは、A、こっちきて」
少しだけ眉が下がったその人を抜かして、いつの間にかタオルを握りしめていた手をオッパが掴む。
目線を合わせたオッパが少しだけ腕を引っ張って、その人の前に連れられる。向かい合っても顔はあまり晴れなくて、テンオッパはわたしの手で遊び始めた。
「テヨンといいます」
『知ってます』
「あっそっか…えっと、」
「ヒョン、早く行かないとでしょ」
「ああ、そうだ」
『…わたし、戻ってもいいですか？』
「Aも一緒に行くんだよ」
持っていたタオルはオッパの首にかかっていて、また眉が下がりそうなテヨンさんの手と、わたしの手をくっつけたオッパはにっこりと笑う。
「ねえA頷いてくれるよね？」
『何に？』
「これからの僕たちのことについて」
『僕たちって…どの僕たち？』
「うーん、たくさん？」
Aはびっくりしちゃうかもねとオッパは笑って、反対にテヨンさんはゆっくりと深呼吸をした。
そのままA、と呼ばれた名前は、今日初めて言葉を交わした人とは思えないほど優しくて、暖かくて、初めて2人で目を合わす。
「よく聞いてね」
『…はい、』
「これからの僕たちに、着いてきてくれるかな」
『あの、さっきから僕たちって言いますけど、』
「うん？」
『わたしとオッパとテヨンさんで何かするんですか？』
「それは、A次第だよ」
いつの間にか連れられていた大きな扉の前で、オッパとテヨンさんの手が離れる。誰から入る？と笑うオッパよりも先にドアノブに手をかけて、開いた先の太陽に目を細めた。
「A、待ってたよ」
何も考えずに開けた扉と、けらけらと笑うオッパと、高そうなスーツを着たおじさんたち。それと、わたしを見るたくさんの目が、ドアを開く前には戻れないことを悟ってしまった。
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yom(プロフ) - 花藤さん» とても綺麗な言葉で表現していただきありがとうございます…！頑張ります！ (2021年8月15日 11時) (
レス) id: 0ce65e6476 (このIDを非表示/違反報告)
花藤(プロフ) - 淡々とした描写の中にきらりと光るそれぞれの感情と、おだやかな余韻がとっても素敵だと思います。一気に拝見しました。更新とっても大変かと思いますが、応援しています。 (2021年8月15日 2時) (レス) id: d70a6e9ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：yom | 作成日時：2021年8月10日 18時
