ほんとに、ばか ページ6
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「あー、俺もそういう時あるわー、」
ごめんね、俺気づいてる。でも気づかないふりしてる。
俺が「間違えた」って言ったの、嘘だって分かってるんでしょ。
だって、ふたりきりだと外す敬語がついてるから。
…優しすぎるんだ、この人は。
だから、だから甘えてしまう。
俺の瞳から零れ落ちた水滴は無視して無理矢理口角をあげる。
まだ、だいじょうぶ。
きゅ、と少しきつくスマホを握れば画面の向こう側からした雨音。
外にいるみたいで、時々車の音がした。
「ね、今外?雨の音してる、」
そう聞けば小さく笑った伊沢さん。
「あー、ばれちゃった?」
…もしかして。
いやそれはないか、なんて自問自答を何度か繰り返す。
“家の前にいるかも”
なんて、変に期待しちゃったら。
それでも気になったものは止めれなくて、手に持ったままのスマホ以外何も持たずに家を出る。
ふと、後から声がした。
毎日飽きるほど聞いてるその声。大好きなその声。
「ふーくらさん!」
ばっ、なんて小学生みたいな話しかけ方。
あぁ、もう。傘もささずにわざわざ走ってきたの?
ほんとに、ほんとに馬鹿。
「伊沢、」
「うん」
「ばか、傘もささずに来たの?風邪引いちゃうじゃん。」
「うん」
「真っ暗なのに一人で来たの?危なすぎない?」
「うん」
何を言っても静かに頷いてくれるから、俺の不安も受け止めてくれる気がしちゃって。
あぁ、もう。瞳から溢れ出す雫も、全部雨のせいにしちゃえ。
「、あいたかった」
「知ってた、」
“だから会いに来たんじゃん”いつもみたいににかっと笑って伊沢はそう言う。
でもその笑顔にどこか寂しさを感じるのはどうして。
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