君への距離は (ページ4)

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「A先輩はさ、好きな人っているの？」

缶コーラを一口飲むと、駿くんは徐にそう問うてきた。私は奢って頂いたホットココアを思わず吹き出しそうになったけど、それを何とか堪えて彼を見る。

「…どうして？」
「なんとなくだよ。いいじゃん、恋バナ」

問い返せば、ふ、と目を細めて笑む駿くん。
私は俯くと、ココアの缶を両手で包みながら呟く。

「いないよ」
「今までいたことは？」
「あんまり。好きってよく分からないの」

昔を振り返ってみては、あやふやな記憶に首を傾げた。
好き、という感情が未だよくわからなくて、恋愛とは無縁の生活をおくってきていたものだから、そんな曖昧な返事しか出来ない。
人として好き、なら感じるのだけれど、恋愛感情かというとなんだか違う気がするのだ。

「そっか。でも、そういうのって直感じゃないかな、とオレは思うよ」

駿くんはそう言って一息に残りのコーラを飲み干すと、器用にゴミ箱に投げ入れた。

「直感かあ」

私も残りを飲み干して、唸る。
それが本当なら、私はそこが鈍いのかもしれない。
いつかわかるときが来るのかな。それはいつになるのかな。考えたってわからないけれど、その空想に浸るのは悪くない。

そのふわふわとした心地に思考を委ねかけたまま、ごちそうさまです。と駿くんにお礼を言うと、彼を真似るように私も缶をゴミ箱に放った。