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『ふふ、はい』


笑う彼女に俺は言った。


「…無理して、笑わなくてもいいんですよ」


そう言うと一瞬、俺の首に回している手を少しピクつかせたと思うと、彼女はまた笑った。


『…笑ってないと、壊れそうなんで、ダメです』


いつもの彼女からは考えられない言葉が出てきた。

"笑ってないと、壊れそう"

その言葉は酷く潤んでいた。




なんて声をかければいいのかわからない俺は彼女を助手席にのせた。

俺も運転席に座り、シートベルトをつける。


『…あ、そう言えばそらくんは…』

「大丈夫でした、多分お母さんの所にいると思いますよ」

『あぁ…そうですか……良かった…』


自分が助かった時よりも、安心して言う彼女は俺にもうひとつ聞いてきた。


『総一くん、は…?』

「…署まで連行ですね」

『あ…そうなんですね……』


ここも本来なら、良かった…と言う人が大半なんだろうが、彼女は少し寂しそうな顔をするだけだった。


『彼ってミキサー主婦のお子さんですよね?』

「はい、そうです」

『…記事を読んだんですけど…彼は愛され方と愛し方を間違ってただけなのかなぁって』


そう言う胡桃沢さんは『あっ、別に愛なんてそれぞれの形があるから…間違ってるなんて言っちゃいけないんですけどね』と付け足した。

俺は精一杯がんばって話す彼女をみて、少しだけ笑い、ハンドルを握ってアクセルを踏んだ。

…笑うなんてこと、ここ最近していただろうか。


『…神谷さんが笑った…』


そうポツリと驚いた顔で言う彼女に俺は


「俺だって、笑いますよ」


とまた笑って話した。
…何故か彼女の前では自然と表情が出てしまうみたいだ。


『神谷さん、笑ったら今よりも、モテますよ』

「0に1かけても2かけても変わりませんよ」


そう言うと、胡桃沢さんはクスッと笑って『自虐ネタですか』と言った。





マンションに着くと、胡桃沢さんはもう歩けるようになっていた。それでもやはり心配なので部屋まで送ることにした。



『ありがとうございました』

「…はい、では」


無事、送れたことを確認して俺は帰ろうとすると胡桃沢さんに呼び止められた。


『…やっぱり神谷さんは優しいです』

「…そうですかね……、俺的には…胡桃沢さんの方がよっぽど優しいと思いますけど」

『褒めても何も出てきませんよ〜!…じゃあ、おやすみなさい』


そう笑う彼女に「おやすみなさい」と返しておいた。


この瞬間を誰かに見られているとは微塵も思わず。

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(プロフ) - うみさん» コメントありがとうございます! 更新する度に楽しく読んで下さりありがとうございます!更新ができない時もありますが、最後までよろしくお願いします! (2019年9月19日 18時) (レス) id: b513cb94f0 (このIDを非表示/違反報告)
うみ(プロフ) - 更新される度に楽しく読ませてもらってます!これからもムリせず更新頑張ってください! (2019年9月16日 20時) (レス) id: 916f75cb10 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 誤字がありました。「空いてますよ」ではなく、「開いてますよ」です。 (2019年9月14日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 無さん» コメントありがとうございます!この小説を好きと言って貰えて嬉しいです!更新、頑張ります! (2019年8月31日 7時) (レス) id: b513cb94f0 (このIDを非表示/違反報告)
- こんにちわ!この小説好きです!更新待ってますね! (2019年8月30日 22時) (レス) id: 06b55d11a8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月22日 22時

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