はい、あーん！【忍たま】

7　虫を食べる人 ページ8

先輩の話を聞いて、確かにそうだと思った。
が、先輩はそれだけでは止まらない。

「怪我が後遺症になって今後に影響する可能性だってあるし、捕まって拷問をかけられる可能性だってゼロじゃない。」
「注意力が欠けてるのよ、見ればわかったでしょう？」

「う」と言葉を詰まらせる庄左ヱ門に対して、先輩はそっと手を伸ばす。
注意されていたせいもあり、殴られる！と思ってしまった庄左ヱ門は目を閉じた。
……が、来るのは痛みではなく、ふわりとした温かなひと撫で。
疑問に思った庄左ヱ門がそっと目を開くと、そこには先程まで怒っていたであろう先輩が、困ったように眉を顰めて笑っていた。

「まったく、後輩を導く先輩たちはなにやってんだが」
「次は気をつけるのよ？そう何回も助けてる暇ないんだから」

思わず見惚れてしまった。
顔が良いからだろう、本当に一言多いのと口が悪いのが勿体無い。
だが、それらを無に返すほどにその笑みは美しく、庄左ヱ門は頬を染めた。

「で、是非お礼がしたい！って思ったんだけど気づいた時にはもういなくて……」
「へえ」

名前も聞いていないまま、分かるのは服装的にくのいちであるということだけ。
あとはあの目に焼き付けた容姿だけを頼りに、その名の知れぬ先輩を探し始めたわけだが……

「問題はここからなんだ。」
「なにが。」
「先輩のことを聞くと、皆嫌そうな顔するんだよね」


例えば豆腐小僧こと久々知兵助先輩。
なにやら最近やけに豆腐作りに熱を投じており、この話も豆腐作りの傍に聞いてもらった。
容姿を説明して、その先輩が如何に素晴らしい先輩かを説明する。
するとどうだろう、見る見るうちに顔を強張らせて眉間に皺を寄せ出した。
おまけに、

「庄左ヱ門、騙されちゃダメだ！」 「へえ？」

がっしりと肩を掴まれてこの憧れを否定されてしまった。


次に穴掘り小僧こと綾部喜八郎先輩。
なぜか頭に大きめのコブを作っていた先輩は、痛そうに頭を撫でながら話を聞いてくれた。
が、またしても話を聞くなり不機嫌そうな顔をしてむすっと表情を曇らせる。

「あんな先輩なんかしらなあい、ほっといたら？」 「そ、そんな！」

唯一ポジティブな情報を聞き出せたのが竹谷八左ヱ門先輩からの情報だけなのだが、……うん。


「このままだとあの名前も知らない先輩がおにぎりと虫を食べる人って情報しかない。」
「それは真面目にひどいな」 「でしょ」


真剣に悩んでいる庄左ヱ門を横に、きり丸も頭を抱えた。

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