はい、あーん！【忍たま】

44　→とりあえず突っ込んどけ ページ45

とんだあほずらだね

誰のせいでこうなったと思ってるんだ。……いや、自分のせいなのだが。
離すなら離すと言ってくれてもいいんじゃないか、と浜は心の中で不貞腐れる。
というか多分態度にも出ているだろう、現に笑いの沸点が低いと言われている浜が、Aの話題をしてから一度も腹から声を出して笑っていないのが事実だ。

「……全く、ほら、これでも突っ込んどけ阿呆」 「うぶっ」

あほずらを見かねたのか、Aは徐に懐から布を取り出すとそれを千切って鼻に詰める。
「うん、間抜けな顔が多少はマシになったんじゃない？」と言葉をこぼすAに、浜は少しばかり苛々。
むすっとした表情をして、先程から一言も声を発さない浜を見て、顎に手を当てて悩む仕草を見せると、浜に合わせてしゃがんでいたのを起き上がり、浜の肩を叩いた。

「ぼさっとすんな、起きろ」
「え」
「医務室行くよ、こんな素人が詰め物したぐらいでなんとかなるわけないでしょ」
「あ、ああ……はい。」

「立てる？」だなんて首を傾げながら手を差し伸べてくるA。
先程の対応との差に唖然としながらも、浜はその差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
いつもの如く、それなりな大きい声で礼を言うと、「ん」と声を漏らしながら軽く頭を揺らした。

……あれ、可愛いぞ、この先輩


・


なんて思っていたのも束の間、その後に続くのはただただ沈黙であった。
どちらかが声を発するわけでもなく、黙々と医務室へと足をすすめる。
浜は気まずそうにむずむずと肩を揺らしたが、先程まであきらかに不貞腐れていた自分から話題を振るのは少々気が引けて、口をぎゅっと噤んだ。


「はい、ここ真っ直ぐ行って突き当たりに医務室あるから。馬鹿でもそれぐらいはできるでしょ？」
「え、最後まで送ってくれないんですか？」
「……なに、君お子様？一人で歩くこともできないの？」


前言撤回、やっぱりこの先輩は可愛くない。

医務室に行く、と自身で言ったくせに何故か医務室まで少しばかり距離のある廊下で別れようとするA。
浜はそんなAの考えがさっぱり理解できず首を傾げるが、帰ってきたのはやはり口の悪い言葉であった。
胃の辺りがむかむかとする、もうこの先輩とはなるべく関わらないようにしよう、と浜は心の中で思う。
だが一応鼻血の詰め物もしてくれたし、医務室まで送ろうとしてくれたのだ。

「ありがとうございましたッ」

浜は言いたくない言葉を無理矢理放り出し、その場を後にした。

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