はい、あーん！【忍たま】

36　諸泉尊奈門の葛藤 ページ37

今日も今日とて土井半助に負けた。
中途半端に使い古されたチョークと、出席簿で。
なんで頑なに手裏剣も苦無も使わないんだあいつは！

ぶっすーと不貞腐れながら、諸泉は忍術学園内を歩く。
本来の任務であった薬を医務室からもらうと、もうここには要はないと思い、負けた悔しさからかトボトボとした足取りで忍術学園の門へと足を向けた。

そんな時、とある曲がり角で一輪の花を見つけた。

……と言うのは、全身が痒くなるぐらいポエマーすぎるか。
だが、本当に花のように美しい女性が、そこには立っていたのだ。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。微笑む姿はさながら桜の花というべきか？

おそらく先の見えない曲がり角には、この微笑みを向けている相手がいるのだろう。
口元に手を当てて、くすくすと笑う姿は見惚れるには十分すぎて、諸泉はその場に立ち止まっていた。

その時

「？」

あの女性が、こちらを見たのだ。
整った顔つきでこちらを見つめたかと思うと、悩ましげに顎に手を当て、曲がり角の向こうにいる人物に語りかける。
くいくい、と袖を引いたかと思うと、曲がり角からは見知った顔が覗いた。


「あっ」 「げっ土井半助！」


それは、我が宿敵である土井半助であった。
さっき負けたばかりということもあってか、軋む体を動かしてなんとか戦闘態勢に入る。
そんな諸泉を見てか、土井は呆れたように頭を抱えると、女性に話しかけた。

「また今度でいいかい？」 「いいですよ、なるべく早めにお願いしますね」

鈴のような声が心地よい。
思わず耳がとろけるんじゃないかと錯覚した諸泉はばっと耳に手を当てる。
やわやわと自分の耳を触り、形を成している耳を確認すると改めて土井に体制を向けた。


……ああーーー、これ多分一目惚れしちゃってるよなあーーー。
そうだよなあー、A、側から見たらかなりの別嬪さんだからなあーー

ちなみに土井は心の中で頭を抱えていることだろう。

そっとお腹……というより胃に手を当てる土井を横に、女性は……高嶺Aは一歩進む。
諸泉は思わず息を呑むと、Aはあの鈴のような声で一声かけた。


「おう退けろや雑魚、人の邪魔しやがって」

「……は？？？？？？」


なんだこれは、錯覚か？幻覚か？脳の処理が追いつかない。
だが、確かに諸泉の目の前では、Aが微笑みながら、口を開けていた。

「退けろって言ってんだろカス」

だが、本能が告げていた。
この女はあかん、と。

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