はい、あーん！【忍たま】

26　とある同室の噂話 ページ27

……今日も今日とて伊作は何もないところで転び、何かあっても穴に落ちる。
動物の糞は踏むし、せっかく摘んだ薬草も撒き散らして台無しにする。
そんな同室に頭を抱え、そして支えようと日々勝負をする食満留三郎の話。


「高嶺が……男と付き合っているらしい」
「エ゛！？！！？」


がっしゃああん！
不意に出た食満のセリフに余程驚いたであろう伊作は、せっかく煎じていた薬草を鍋ごとひっくり返す。
いつも通り「伊作！？大丈夫か！」と食満は駆け寄るが、伊作はそんな声が聞こえないのだろうか？顔を真っ青にして一点を見つめていた。

……高嶺A。くのいち教室の数少ない上級生の一人。超がつくほど優秀な五年生。
見た目も美しく、道行く人が皆振り向くほど。
得意な武器は狙撃銃と自身で言っており、その銃に射抜かれたいと騒ぐ物好きもいるとかいないとか。

「お望み通りドタマ打ち抜いてやるよ、並べや」
「授業が難しい？私はそうは思わないけど、努力と脳の容量足りてないんじゃない？」
「おにぎりおいしい」

……ダメだ、伊作には全く想像がつかない。
Aが男と、それも恋人と仲睦まじ気に歩く姿が、恐ろしいほどに浮かばない。
むしろ思考の中では悪口をかましたAと男が喧嘩している光景が浮かんで消えない。

伊作は今までにないほどに慌てていた。
それもそうだろう、Aが入学してきてすぐに上級生と教師を巻き込むほどの大問題を起こした挙句、上級生を根こそぎ退学処分にしたAに恋人？人質の間違いじゃないのか。
そんな同室を察してか、食満は雑巾で床を拭きながら言う。

「なんでも五年い組の久々知兵助と付き合っているともっぱらの噂話なんだ」
「うそ！？！？」
「伊作落ち着け」

せっかく持ち上げた鍋をまたひっくり返した。
もう薬草やらなんやらで床はしっちゃかめっちゃかだ。いっそ床ごと張り替えたいほどである。

伊作がそうなるのも無理はない、高嶺Aと久々知兵助……食堂で豆腐騒動を起こしたことで最近話題になっている二人。
忍たまたちの中では、潮江文次郎と食満留三郎、田村三木ヱ門と平滝夜叉丸に張り合えるぐらいに仲が悪いともっぱらの噂だ。
そんな二人が付き合っている？冗談だろ、僕は夢でも見てるのか？


「いひゃい」 「伊作さっきからなにやってるんだ」


頬をつねってみるが、夢ではないようでツンと痛みが走る。
困惑した様子で伊作を見つめている食満をよそに、伊作は悩まし気に考えていた。

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