シルエット

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胸が張り裂けそう。




予備校の前で、
おとんが仁王立ちして待っとった。


都会に来るからか、
気合の入った背広着てる。


おとんには、
殴られる覚悟やってんけど、
思ったよりかは、
怒られずに済んで、

かえって、気持ち悪いぐらい。



帰りの船で、


「おとん、俺な、俺、大学行きたい」


意を決して言うてみたけど。


「はあ？
頭おかしなったんけ？」


おとんは、真剣に取り合うてくれれん。


「葡萄畑は朝子姉ちゃん夫婦が継ぐやろ。
俺な、もっと勉強したいねん。
数学とか理科とか」


「大毅は役場入るんや」


「俺、役場には入らへん。
勉強して、都会のでっかい会社に入る」


せやないと、ともには釣り合わへんと思うねん。


「何言うとんねん。
ちょっと島の高校で一番やからて、
大学なんか行けるわけないやろ。
都会には頭のええ人間がわんさかおるねんから」


「じゃあ、
模擬試験でええ成績取ったら、考えてくれる？」


「模擬試験てなんやねん」


「秋にそういう試験が神戸であるねんて。
俺、頑張るから。なっ、約束な？」


「分かった分かった」


おとんは俺が良い成績なんか取れるわけないって、
たかを括ってるみたいや。

けど、チャンスはゼロやなくなった。


絶対に頑張ろう。









ともと離れてる５日間は、
思ってたよりもずっと長く感じた。


ともは、
向こうでの暮らしの方が良くなって、
もう戻って来てくれへんのかって。

不安でたまらん。


それに、

俺らが両想いやってことも、
キスしたことも、

夢やったんかも、思えてきて。


何回も何回も、

ともがくれた、

１と７の蝋燭を、

引き出しから出しては、見つめてた。


待ちわびて、
船の到着時間より３０分も前に、
船着場に着いてもうた。


汽笛が響く。

港に入って来る船。


デッキにともの姿を見つけた。


俺を見つけて、
照れくさそうに笑って、手を振ってる。


「とも！」


大声で呼んで、
チャリ、その場に倒して、駆け出す。


夢やなかった。

何もかも。


俺は、生まれて初めての、恋を、してる。

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