【小説版】悲劇のブラックスワン (ページ29)

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零時、別の現場ではページ29

遡ること少し。
　丁度、零時の鐘が鳴った頃。

「強盗集団っていうのは、貴方たちですか」
「いや、聞いても仕方ない。だってこいつら、ここで死ぬからな」
　氷葉涙――ミントティアーズの言葉に、深淵麻音――ダークネスサーガが応える。
　二対の瞳は、見下げきったように。
　そんな二人の間から、赤いミニドレスを纏った少女が進み出た。
「……残念ですが、ここで死んでもらいます――あぁ、その前に」
　少女、薔薇捗朱凛――レッドローズシックは、小首をかしげる。
「貴方がたは商店専門の強盗グループ――で、よろしかったですよね？」
「あ、あぁ……その、通り、です」
「そう……じゃあ、民家には入らない？」
「そう、です……」
　その言葉に、朱凛は小さく息を吐く。
　――が、強盗グループのメンバーの一人が、不意に口を開いた。
「そういえば……俺の知り合いに、民家強盗専門のやつがいる。捕まってないが……」
「本当に？」
　突如、朱凛の剣幕が変わった。その男は震えつつ口を開いた。
「は……い」
「そいつの名前は分かるか？」
「川原木……寛。カワラギ・ヒロシだ」
「そう。貴重な情報提供、感謝するわ」
　言って、朱凛は弓をつがえる。涙はリボルバーを構え、麻音は腰のケースから爆弾を取り出す。
「じゃあ、貴方たちにはもう用はないから。さよなら……」

　悲鳴と爆発音が響く。
　続き、銃声が響いた。右からは涙が、左からは拳銃を抜いた麻音が。さらに中央からは朱凛が射撃を開始する。
　一発も外れはない。
　全てが、精確に、心臓を貫いてゆく。
　その場は血飛沫に染まり、爆薬と血の香りだけが残った。
　生きている者は、三人の暗殺者のみ。

「川原木寛……ねぇ」
「そいつ、冬乃ちゃんと関係あるのかな？」
　不意に麻音が呟いた。
　暗黒のスナイパーこと瀬戸口冬乃。彼女が暗殺を行う目的は、家族を殺した強盗に復讐すること。
　その候補は既に数名いる。今名前が出た川原木寛のほかにも、二名。赤木義人、広瀬鈴子だ。
「う～ん、わかんない」
「私は広瀬鈴子が怪しいと思うけどなぁ。情報的にそうだと思う」
「あとで学校で皆で話し合ってみようよ」
　ブラックスワンに属する高校生たち――朱凛、麻音、涙、愛那、冬乃、桜花、弁籟は全員同じ高校だ。学校での話し合いもたやすい。
「ん～、でも、愛那ちゃん、暗殺続けるのかな？」
「それは本人にしかわかんないよ。それにしてもミーナ、どうしてるかな……」
　涙は、どこか心配そうに呟く。