弱虫姫奮闘記―癒しの姫君【弱虫ペダル】【第５期】

２７ ページ27

青八木先輩と新開さんが戻ってきたのを見て、私は慌てて２人に駆け寄ると２人を見上げたけれど、どう言葉を紡いでいいのか分からずにへにゃりと眉が下がったのが分かった。

すると、新開さんは困ったように微笑んで私の腫れていない方の頬に手のひらで触れる。



「怪我は･･･痛むかい？俺に出来た事といえば･･･あんなもんだ。･･･ごめん」

「そ･･･んなこと、ありません･･･。わ、私。大切なこと、まだ、伝えていません、でした･･･」

「大切なこと？」



新開さんは優しく微笑んで首を傾げて先を促してくれる。

私は頬に触れる新開さんの手の上に片手を重ねて、もう片方の手で隣りの青八木先輩の指先をきゅっと握った。



「青八木先輩。新開さん･･･。私、あの時･･･。死にたいと思うくらい･･･絶望していたんです･･･」

「「･･･っ」」

「その時、足音が聞こえて、私を傷つける人が･･･また、増えたのかと･･･。そう思いました･･･」



震える指先を新開さんと青八木先輩は、優しく握ってくれたから、私はありったけの勇気を搾り出す。



「お２人が、来てくれて･･･嬉しかったんです･･･。助けてくれて･･･。私の心を、救ってくれて･･･ありがとう、ございました･･･」

「･･･うん」

「怪我をさせてしまったけど･･･心を救うことは、出来たのか･･･。なら、それでいい･･･」



私は今、出来る精一杯の微笑みを感謝の気持ちを込めて２人に向けることが出来た。


新開さんは、何か言いたそうな視線を押し込めるように一度目を閉じたけれど、次に目を開いた時には、いつもの自信に満ちた笑顔でウインクしてくれた。

青八木先輩は、保健室での会話で思うことは伝えてくれていたから、ゆったりと頷いて微笑んでくれて、私もまた微笑み返す。



「私、総北高校の自転車部の皆さんも、箱根学園の皆さんのことも、大好きです」



言葉には、何の色も見えなくて、温度を感じることも出来ないけれど、私の感じているこの気持ちが･･･少しでも･･･１％でも伝わればいいのにと思った･･･。

２８→←２６

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す