弱虫姫奮闘記―癒しの姫君【弱虫ペダル】【第１１期】

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車椅子を用意してもらっているから、そこに座らせてもらえさえすれば取り合えずは自分で移動できる。

洗面台が窓際に設置されているからそこで歯磨きをしていると、空さんが私の横からコップに水を注いで歯磨きを始めた。



合宿でもないのに朝から誰かが一緒なんてなんだか変な感じだな。

タオルで顔を拭いていると、私の髪がツンと引っ張られる感じがして顔をあげる。




「長い髪だな。ここ、寝癖ついてる」

「えっ。ど、どうしましょう。着替えとか必要なものは昨日用意してもらったのですけど、さすがにスプレーとかは持ってきてもらえてませんでした」




この長い髪を水で濡らすか真剣に蛇口と睨めっこしていると、プッと噴出されてしまった。

夜中の出来事は夢じゃなかったんだ。

松本さんがカーテンを開けて私と空さんに声をかけてくれる。




「あら姫ちゃん。寝癖？困ったわね。私は髪が短いからスプレーなんて持ってないし･･･。空くんは？」

「俺？あるけど。俺のでもいい？」

「え？いいんですか？では･･･お願いします」




空さんは真波くんよりも薄い藍色の髪でサラサラのストレート。

髪の長さは手嶋先輩より少しだけ短いけど、男の人にしては長めだと思う。

スプレーを借りるだけかと思っていたら、空さんは私の髪にスプレーしてブラシで梳かしてくれた。




「ふふ。至れり尽くせりね。なんだか仲良し兄妹って感じ。妹を溺愛するお兄ちゃんね」

「松本さん。からかうの禁止ー」

「あらあら。ごめんなさいね」




松本さんと空さんの会話を聞きながら、この病室でよかったなぁと感じた。

ふんわりとグレープフルーツみたいな爽やかな香りが広がって、手嶋先輩の甘いオレンジのようなの香りとはまた違う柑橘系の香りに癒される。

人それぞれ違うんだなぁと香りを楽しんでいるとピエール先生が来てくれたそうで、看護師さんが車椅子を押して診察室まで連れて行ってくれた。



診察室の前でピエール先生と会うと、先生は優しく目を細めて頭をポンポンと跳ねるように撫でてくれる。

担当医の先生のお話を聞いた後、ピエール先生と病室でお話することになった。




「どうデス？少し落ち着きましたネ？」

「は、はい。昨日より気持ちは落ち着いてます」

「ミス・クリス。････決めたのですネ？」

「････はい」




ピエール先生は少しの間目を閉じた後、ゆっくりと開いた。

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