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レースに絶対は無いが、そのウマ娘には絶対がある。勝利より、たった二度の敗北を語りたくなるようなウマ娘。
『3枠6番、ビゼンニシキ。6番人気です 』
足を怪我してから二年が経つ。その二年の間に絶対者、シンボリルドルフに勝てるよう鍛え上げた。
パドックに立ち、観客からの歓声を一身に受ける。
「ビゼンニシキ久しぶりー!」
「今年も強敵揃いだけど頑張れよー!」
一番人気ほどはないが久々のG1出走ということで沢山応援を貰っている。手を振り、一礼して引っ込もうと戻って行った時、ルドルフに腕を掴まれてパドックに戻らされた。
『4枠7番、シンボリルドルフ……ビゼンニシキを連れてきていますね 』
案の定観客も困惑している。あたしだって何が起こっているのかわからない。
「観客の皆さん、本日もレース場まで足をお運び頂きありがとうございます。他にも選手はいますが、前走よりかなり間が空いているのはビゼンニシキのみです 」
だから人気を上げろとでもいうつもりだろうか。そんなんで上がってもこっちは嬉しくないんだけど。
「彼女は私にとって特別なウマ娘です。入学当初からやり合って、弥生賞、皐月賞も接戦でした。私に負けたからと腐るわけでもなくレースに出続け、見事私に負けないくらいの勝率を勝ち取っている 」
観客は黙ってその話を聞いている。私も何を言えばいいかわからないが、流石にこの空気の中で戻るわけにも行かない。そもそも腕掴まれてるし。
「彼女は、ビゼンニシキは私が認めるライバルだ。久々に私と彼女がワンツーで勝利を飾るところをお見せしよう 」
演説が終了すると、観客席は沸いたように歓声を上げた。ルドルフは一礼をして、こちらの手を離して戻ろうとしたが今度はこちらが腕を組んで止めた。
「ルドルフ、どっちがワンかここではっきりさせとかないと。あたしだよね?」
「いや、もちろん私だ。確かにあんなに迫ってきたのは君くらいだが、今回も私が勝つ 」
「はぁ〜?あんた夏苦手で秋レースもちょこちょこ負けてるじゃん。今年のJCも勝ちたいならここで負けといたほうが良くない?」
「今のところ年間無敗なんだが。君だって私に勝ったことがあったかな 」
『お二人共早く戻ってください 』
アナウンサーにせっつかれて笑い声の中パドックに戻って行った。
「今回も君には負けない 」
「臨むところだ 」
天皇賞・秋、開始まで残り30分。
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作者名:あきんど | 作成日時:2022年12月12日 21時