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そろそろ消灯の時間になるが、ルドルフは見舞いには来なかった。昨日レースが終わった後だし、疲れているのかもしれない。
「……もしもし、ルドルフ 」
それでもやはり声が聞きたくて、スマホのメッセージアプリから電話をかけた。落ち込んでいるのか寝る前だからかテレビ通話ではなく、名前と初期アイコンが表示されている。
「ジャパンカップの件、あれなんで負けたの？」
『……カツラギエースをマークしていなかったこともそうだが、逃げ切りを警戒しなかったことが一番大きい。だが、君は私が負ける方が都合がいいんじゃないか？』
「そう、そっちの方が都合がよかった。負けたらあんたを引退の言い訳に使えるからね 」
突き放すようにそう伝えると、ややため息混じりに「そうか」と聞こえた。
「だけど、昨日の走りを見てたらまた走りたくなった 」
深呼吸をし、伝えたいことを伝えるため目を瞑り、昨日のレースを思い返した。着差は1と1/2バ身+アタマ。圧倒的な勝利というわけでもない。だからこそ余計に、自分のことでもないのに悔しい。
「あんたがあたし以外の人間に負かされると腹が立つ。だからあたしがターフに戻るまで負けることは許さない。よく聞け、ルドルフ 」
一呼吸起き、しっかり口を動かして言葉を紡ぐ。
「次にシンボリルドルフを負かすのはこのあたし、ビゼンニシキだ 」
静寂の後、電話の向こうからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「……何、やっぱちょっとクサかった？」
『いやいや、そんなことないとも。君が戻ると聞いて安心したよ 』
「まあね。どれだけ無様でもあたしが走ることで勇気付けられる人もいるらしいし。あんたが掲げる目標の『全てのウマ娘の幸福を導く』ってやつ、別にレースに出るウマ娘に限らないんでしょ？」
『無論だ。レースに出るウマ娘もレース場で働くウマ娘も、走ることのできないウマ娘も並べて全てのウマ娘だ 』
「じゃああたしも貢献してあげるよ。それで皇帝様、宣戦布告に対する返答は？」
『ああ……では 』
こほんと咳払いの後、電話越しだが威圧感を感じた。本当に何なんだこのウマ娘は。
『望むところだ、ビゼンニシキ。君にだって負けてなんてやらない。帰省反本のその時を私は待っている 』
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作者名：あきんど | 作成日時：2022年12月12日 21時
