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翌日。午前のリハビリを終えて談話室で休憩していると、「ビゼンニシキさん」と声をかけられた。
「ネヴァーさん 」
「呼び捨てで構いませんよ。私、あなたのファンです！」
「うん、昨日言ってたね。なんでか教えてもらっていい？」
「はいっ、ビゼンニシキさんの走りに惚れてしまったんです！デビュー戦から四戦四勝、後方からでも最前線でもあんなに速く走るあなたにどんどん惹かれて……皐月賞もNHKマイルも、プリンシパルステークスも！現地に観に行ったんですよ！」
「ああ……じゃあかっこ悪いところ見せちゃったかな 」
頭をかくと、ネヴァーイチバンはフルフルと首を横に振った。
「とっても、カッコよかったです。最終直線に入ってから一人だけまるで違う空気の中にいるようで、ぐんぐん二人で後ろを突き放して……。その空気を作っていたのは紛れもなく、ビゼンニシキさんでした 」
「買い被りすぎだよ。皐月賞はルドルフに負けたくないから競り合ってただけ 」
「それでもニシキさんもレコードですよ!?ともかく！私はビゼンニシキさんが走っているところが大好きだったんです！走っているのを見ると勇気が貰えて、それで私は、祭壇なんか作っちゃったりして…………」
「さ、祭壇……？」
聞き返すと、スッとこちらにスマホの画面を見せてきた。大きくカラー印刷した自作ポスターや等身大パネル、雑誌の切り抜き、更にはグッズが沢山並べられており……なるほど、これは祭壇だと変に納得してしまった。
「私はあなたの走りが大好きです 」
「そ、そう……ありがとう 」
「だからこの祭壇に毎日お祈りしてるんです。あなたのように走れるようになりますようにって 」
さす、と彼女は毛布越しに自分の足を撫でた。全くシルエットが見えない。
「私の足、奇形があってうまく走れないんです。リハビリも上手くいかず腐ってた時にたまたまテレビであなたのデビュー戦を見て、勇気を貰いました。こんな走りがしたいって 」
ビゼンニシキさん。
正面から顔を見、こちらに目を合わせて彼女は口を開いた。
「また私に走りを見せてください。あなたの全力の走りを 」
待っています。
そう告げられて、もう走らないなんて言えるわけがなかった。
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作者名：あきんど | 作成日時：2022年12月12日 21時
