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病院のテレビで全てを見届け、ブツッと画面を切った。
ルドルフが負けたということは、あの賭けはこちらの勝ちとなる。足は最低限、日常生活を送れる程度まで回復させるだけでいいし、天皇賞でやり合うという約束も反故にして構わない。
「…………なんでよ 」
なのに胸はむかむかしている。ルドルフの負けが認められないのか、それとも初めて海外勢に勝ったのがルドルフではないからか、あるいは、彼女を初めて負かしたのが自分ではないからか。
どちらにしろ、このまま彼女に「じゃあもう走らないね」と言うのはなんだか嫌だ。次にまた勝ったところで弥生賞の時の土を付け返してやる。
松葉杖を使い、廊下を歩く。リハビリルームは少し遠いが、廊下を歩くだけでも訓練にはなるらしい。
「あの……ビゼンニシキさん、ですよね？」
イライラしたまま振り向くと、そこには車椅子に腰掛けた黒鹿毛のウマ娘がいた。内巻きになったロングヘアが可愛らしいが……恐らくこちらより年上だろう。
「私、あなたのファンです！あのっ、こんな時に言うのもなんですが……」
「ごめん、怪我のことは放っておいてくれると……」
「あっいえ！怪我のことじゃなくて、その……あ、握手してください！」
ぎゅっと目を瞑り、彼女は両手をこちらに差し出してきた。……どうしよう。
「あー……まだ松葉杖に慣れてないから、また今度でいいかな？」
「……ご、ごめんなさい！私ったら自分が車椅子だからってつい……！あの、次走の予定はありますか!?」
ローテを尋ねられてきょとんとしてしまった。また走るなんてこちらは一言も言ってないのに。
「ああっ、そんな簡単に教えられませんよね！忘れてください！もうやだ恥ずかしい……すみません、お部屋に戻りますね 」
「待って、貴女の名前は？」
そのまま去ろうとしていた彼女は器用にも車椅子ごと振り向き、いい笑顔で名を名乗った。
「はいっ、私はネヴァーイチバンです！」
ネヴァーイチバン。どういうわけか、その左耳に大きなリボンをつけた彼女のことが気になってしまった。
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作者名：あきんど | 作成日時：2022年12月12日 21時
