何度生まれ変わっても ページ6
ただ唯一、心残りがあるとするならば。
梅、お前は俺と違ったんじゃないかってことだ。
もっといい店にいたなら真っ当な花魁に。
普通の親元に生まれていたなら普通の娘に。
両家に生まれていたなら上品な娘に、なっていたんじゃないか。
染まりやすい、素直な性格のお前だ。
俺が育てたためにお前はこうなっただけで、もっと幸せな道があったんじゃないか。
奪われる前に奪え、取り立てろ。
そう教えたから、お前は侍の目玉を突いたが、従順にしていれば何か違う道があったかもしれない。
俺の唯一の心残りは、お前だったなぁ。
真っ暗な場所に、妓夫太郎は立っていた。
「お兄ちゃああああん!」
聞き慣れた甲高い声が聞こえた。
「嫌だ!ここ嫌い!どこなの?出たいよ、何とかして!」
梅は、人間の姿をしていた。
死んだときの十三の姿のまま、俺に話しかけてくる。
背中を向けて歩き出すと、そっちが出口?とほっとしたような梅の声が聞こえた。
「お前はもう俺に着いてくるんじゃねぇ」
なんで、と焦ったように俺の後を追う梅について来んじゃねえ!と叫ぶ。
「さっきのこと怒ったの?謝るから許してよ!」
梅の声は震えていた。涙を流しているのだろう。
「お兄ちゃんの事醜いなんて思ってないよ!負けて悔しかったの、あたしのせいで負けたって認めたくなかったの、ごめんなさいうまく立ち回れなくって。あたしが役に立ってたら負けなかったのに、いつも足引っ張ってごめんなさい!」
ねぇお兄ちゃん!と梅が呼ぶ。
「お前とはもう兄妹でも何でもない。俺はこっちに行くからお前は反対の明るい方へ行け」
背中に、梅がしがみついた。嫌だ!嫌だ!と梅は泣き叫ぶ。
「離れない!絶対離れないから。ずっと一緒にいるんだから!!何回生まれ変わってもアタシはお兄ちゃんの妹になる絶対に!」
アタシを嫌わないで、叱らないで、一人にしないで。置いていったら許さない。
梅はそんなことを言いながら俺の首に手を回した。
「ずっと一緒にいるんだもん、約束したの覚えてないの?忘れちゃったの?」
思い出したのは、冬の日。
藁で雪を凌ぎ、凍える梅の体を抱きしめながら言った言葉だ。
(俺たちは二人なら最強だ。寒いのも腹ペコなのも全然へっちゃら。約束する。ずっと一緒だ。絶対にはなれない。ほら、もう何も怖くないだろう?)
自分の意志で、梅を背負う。
妹と一緒に、暗い方へと進む。
例え行く先が地獄だとしても。
梅と俺は、ずっと一緒だ。
151人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時