鬼に成る ページ5
梅は、自慢の妹だった。
年端も行かない頃から、大人がたじろぐほどきれいな顔をしていた。
俺は喧嘩が強いことに気付いて取り立ての仕事を始めた。
俺を気味悪がって恐れて気分が良くなり、自分の醜さが誇らしくなった。
梅のように美しい妹がいることが、俺の劣等感を吹き飛ばしてくれた。
これから俺たちの人生は良い方へ回っていくような気がした。
十三になった頃。
客の目玉をかんざしで突いて失明させたので、梅は報復として縛り上げられ、生きたまま焼かれた。
仕事から帰ったら、丸焦げになった梅の姿があった。
あの美しい顔が、体が、見る影もなく真っ黒に焼け焦げていた。
気が付けば、炭のようになった梅を抱き抱えて絶叫していた。
「やめろやめろやめろ!!俺から取り立てるな!!何も与えなかったくせに取り立てやがるのか!許さねえ!!許さねえ!!
元に戻せ俺の妹を!でなけりゃ神も仏もみんな殺してやる!!」
そう叫んだ時、背中に熱があった。
そのすぐ後にくる、激痛。
「こいつで間違いないか?」
「はい!そうでございます。感謝いたします。厄介払いができて良かった。本当に凶暴でねぇ。取り立て先で大怪我させたり最近では歯止めがきかなくて。」
話していたのは、片目に包帯を巻いた侍と仕事先の女だった。
「梅の事は残念でしたけど、可愛い子を見つけたらまた紹介しますので。あの、お金の方を…」
「まぁ待て、止めを刺してからだ。」
そう言って侍が近づいてくる。
俺は勤め先の女の喉に鎌を突き立てて殺した。
ギャッという品のない声を出しながら女は動かなくなった。
「お前、いい着物だなあ」
羨ましい。
「清潔で肌艶もいい。たらふく飯を食って綺麗な布団で寝てんだなぁ。生まれた時からそうなんだろう。雨風凌げる家で暮らして、いいなぁ。いいなぁ。」
羨ましい。妬ましい。
「そんな奴が、たかが目玉一個無くしたくらいでギャアギャアピーピーと騒ぐんじゃねぇ」
鎌は、侍の首を切り裂いていた。
梅を抱きかかえて、歩く。
雪が降り始めた。
誰も助けてくれない。いつもの事だった。
「どうしたどうした可哀想に。」
助けてくれる人間はいなかったけれど、助けてくれる鬼はいた。
「俺は優しいから放っておけないぜ。その娘、間もなく死ぬだろう。」
お前らに血をやるよ、そう言った鬼の言葉を受け入れ、俺と梅は鬼になった。
鬼になったことに後悔はない。
ただ、もし唯一。心残りがあるとするならば―――
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時