死にたがり ページ34
「生き急いでいるように見えますか。」
「見えるね。そうじゃなきゃこんな刀にならん。」
絞り出すように口に出した言葉は、鋼鐵塚の言葉で一蹴された。
こんな刀、と言いながら差し出されたのは自分がここ2ヶ月で使っていた代わりの刀だった。
改めて見ると、刀は酷い状態だった。
刃の根本は錆があるし、刀身も少し見ただけで刃毀れが四つ見つかった。
『反応が遅い』
『友達も子どもも守れてないよね』
先程の時透の言葉がまた頭の中を占める。
―――私は未熟だ。どうしようもなく。
「すみません。大事な刀こんなのにしちゃって…」
「刀こんなにしたのもムカつくがお前に関してはまた別なんだよ。質問に答えろ。」
どうして生き急ぐんだって聞いてんだよ。
鋼鐵塚は先程よりもさらに低い声で、再びAに同じ質問を投げかけた。
生き急いでいるのだろうか、と疑問に思った。
私が柱になったのは偶然と言ってもいい。
たまたま家族の仇が十二鬼月だった。
たまたまその鬼の血鬼術が”痛みを共有する”というもので、痛みを伴わない氷の呼吸を使う私にとっては相性のいいものだったのだ。
遊郭の戦闘も、炭治郎達が居なかったら勝てなかっただろう。
だから、運が良かったのだ。
私が柱になったのも、宇髄さんや煉獄さんが抜けたからに過ぎない。
それでも、柱になったからには多くの命を救わなければならない。
冨岡さんのように、たくさんの人を救わなければいけないのだ。
「柱になったんです。私が頑張らなきゃいろんな人が死ぬ。生き急いでいるのは、鬼殺隊みんなそうでしょう。」
自分の口から出た言葉は、驚くほど刺々しい音をしていた。
そんなAを面の内側からじっと見つめる鋼鐵塚は、少しの沈黙の後、同じように刺々しい声でAに言葉を投げた。
「お前、意外とガキなんだな。」
頭をガツンとぶたれたような衝撃だった。
何か言葉を言い返そうと口を開くが、ほんの少し残った理性がそれを押しとどめる。
腸が煮えくり返るというのはこういう事を言うのだろう。
今口を開いて出てくるのは、怒りに任せた罵詈雑言だけだという確信があった。
そんなAの思いを知ってか知らずか、鋼鐵塚が再び口を開く。
「お前が思ってるのは『死にたくない』だろ。『生きたい』と思ってないんだよお前は。」
立ち尽くすAを見つめたまま鋼鐵塚はトドメの一言を放った。
「お前、今鬼を斬ることしか考えてねぇだろ。死にたがりの刀は打つ気にならねぇ。」
151人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時