山小屋にて ページ33
Aは困惑していた。
自分の知る鋼鐵塚という人物は、こんなにも静かな人だっただろうか。
炭治郎達と別れたAは森のさらに奥深くへと足を進めていた。
どこへ向かうかもわからない彼の背中から離れないように、一定の速度で彼の少し後ろを歩く。
鋼鐵塚と顔を合わせるのは選別試験の後、刀を受け取って以来の事だ。
そのため、Aは彼について深いことは知らない。ただ、刀に対する情熱が本物であることは刀を前にした彼の音ですぐに分かった。
―――いい刀だ、大事に使え。
刀を受け取った時に言われた彼の言葉を私は忘れることは無いだろう。
刀の扱い方を知らない自分に散々怒りの音を立てていた彼は、私が刀を抜いた途端に満足そうにその言葉を口にしたのだ。
どうやら私は彼のお眼鏡に適ったらしい。
虫の声や風の音をぼんやりと聞き流しながら足を進めていると、開けた場所に出た。
森の中に突然現れたのは、小さな木造の家屋だった。
鋼鐵塚の後に続いて小屋の中へと足を運ぶと、まず目に入ったのは大きな砥石だった。
小屋の中には、生活に必要な物が一切見当たらない。
その小屋には、玄関というものが無かった。外と同じような地面が、そのまま小屋の中にまで続いている。床すらも存在しないその小屋の中にあるのは無数の刀だけだ。
ここで刀を作るのだと、刀に関しては素人であるAにもすぐに分かった。
「刀見せろ」
「えっ、はい、これですか?」
鋼鐵塚の言う通りに自分が今使っている刀を差しだしてから、まずいと思った。
刀というものは手入れが必要だ。
鬼はすぐに体が消える。それでも、刀にこびりついた血や油というものはすぐに灰になって消えるにも関わらず、思っている以上に刀を消耗させるもので、手入れをしないとすぐに分かる。
刀鍛冶を生業とする鋼鐵塚なら尚のことだろう。
自分に降りかかってくるであろう怒声を想像しながら息を殺して姿勢を正す。
カチン、と鯉口を切る音が耳に届いた。
このまま斬られはしないだろうかと嫌な想像を膨らませていると、案の定鋼鐵塚から物凄い怒りの音がした。
「お前」
冷たい声だった。本当に斬られるんじゃないかと冷や汗がAの頬に伝う。
「何をそんなに生き急いでんだ」
低い声がAの鼓膜を震わせる。
想像していたものとは全く違う言葉にAは言葉を失った。
ゆっくりと顔を上げる。
表情の見えないひょっとこの面は、静かにこちらを眺めていた。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時