鍵と絡繰人形 ページ32
「俺一人で下まで運べるかなぁ」
「私が運ぶので大丈夫ですよ。どこまで運びますか？」
「もう少しして起きなきゃ…ん？瞼が動いた！コイツ起きる！じゃあな！おい、お前も行くぞ！」
「小鉄君、またね！」
「う、うん。」
ぱちり、と目を開くと真横になった森が見えた。
急いで体を起こすと、先程のひょっとこの面の少年が心配そうに、大丈夫ですか？と声をかけてくる。
「鋼鐵塚さんいた？」
先程聞こえた声を思い返して、炭治郎は少年に尋ねた。
炭治郎の問いに少年は一瞬びくりと肩を震わせて、
「いえ、いなかったですよ。」と、目線を逸らしながら答えた。
「そうか、気のせいか…」
幸いにも炭治郎は彼の嘘に気付く素振りも無く、柱の人は？と次の質問を少年に投げかける。
「鍵を渡したので行ってしまいました。」
「渡しちゃったのか…渡すしかない感じだったけど…」
事情も良く分からない自分が言う立場では無いと理解しつつも、炭治郎は少年を気遣う言葉を探す。
「いえそんな！見ず知らずの俺を庇ってくれて…ありがとうございました。」
頭を下げる少年に炭治郎はいやいや、役に立てず…と申し訳なさそうに応えた。
「そういえば、Aはどこへ行ったんだ？」
「え、えーっと…あのですね…」
突然口ごもる少年に、炭治郎は首を傾げる。
「うーん…どこかにいい訓練場所でも見つけたのかな…？」
「そっ、そうなんです！もう刀が振りたくてしょうがない！我慢できない！と仰っていました！」
「そんなに刀を振りたかったのか…」
思いがけない誤解を受けたAだったが、炭治郎は気にする素振りも無く一番気になっていることを少年に尋ねた。
「鍵っていうのは何の鍵だったの？」
少年によると、鍵は絡繰人形を動かすためのものらしい。
その絡繰人形は少年の先祖が作ったもので、百八もの動きが可能。
時透は戦闘訓練のためにその人形を使おうとしていたが、老朽化が進んでいるため少年は時透に鍵を渡すのを拒んでいたというのが先程の揉め事の原因らしい。
その話を遮るように、大きな金属音が二人の耳に届いた。
音の方向に向かった炭治郎と少年が目にしたものは、凄まじい速度で繰り広げられる剣戟だった。
時折かろうじて姿を捉える事が出来る時透の刀は、次々と襲い掛かる絡繰人形の刃を正確に捉えて弾き返していく。
時透の刃が絡繰の刃を十数回弾き返した頃、ようやく絡繰人形は後退して姿を見せた。
「あれが僕の祖先が作った戦闘用絡繰人形、縁一零式です。」
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作者名：kanna | 作成日時：2019年10月22日 12時
