氷と蝶 ページ14
二週間かかると言われた私の体の傷は、なぜか一週間で傷がふさがった。
本来の回復速度よりも異常に早い傷の治りに、看病してくれたしのぶさんも首を傾げていた。
そのしのぶさんが、私に声をかけた。
「柱になると、冨岡さんからお聞きしました。」
冨岡さんとの話し合いの末、私は冨岡さんから柱になることへの承諾を受けていた。
元々、宇髄さんが推薦した時点でほぼ私が柱になることは確定だったのだと、苦々しい顔をして冨岡さんは言っていた。
「あまり、無茶をしないでくださいね。」
Aさんはすぐ怪我をするから、と悲しい音をさせながらしのぶさんは微笑んだ。
この音をさせるとき、しのぶさんは私ではない誰かを見ている気がする。
それが、しのぶさんにとって大切な誰かだったという事は、しのぶさんの表情が物語っていた。
慈しむような、それでいて泣きそうな不思議な表情を、たまにしのぶさんは私に向ける。
「ありがとうございます。でも、私しのぶさんの事も心配です。」
私の口はそんな言葉を口にしていた。
しのぶさんは笑顔を絶やさない。
それでも、いつもどこか怒ったような、寂しいような音を僅かに鳴らしている。
そんなしのぶさんが、私は急にどこか遠くへ行ってしまいそうで心配だった。
しのぶさんは少しだけ目を丸くさせてから、またいつもの柔らかい笑顔に戻る。
「大丈夫ですよ。でも、柱になった以上お互いいつ死ぬかわかりませんから。」
それまで、精一杯生きましょうね。
しのぶさんはそう言って綺麗に笑った。
彼女の事が、嫌いだった。
実の妹を斬り捨て、育ててくれた祖父が死んでも涙を流さないAさんが、嫌いだった。
それなのに、Aさんは鬼が痛がるのが嫌だと言って伍の型しか使わなかった。
意味が分からない。あまりにも矛盾している。
彼女のことが、嫌いだった。
傷だらけで蝶屋敷に足を運ぶ彼女を見るたび、鬼に情けをかけても無駄だと訴えたくなる。
それでも、彼女は伍の型以外を使おうとはしなかった。
下弦の肆との戦闘で重傷を負ってもなお、彼女は鬼が痛がることのない氷の呼吸とやらを使っている。
彼女のことが、嫌いだった。
「Aが、柱になる。」
冨岡さんは何故か私にそう伝えてきた。
どうして私に伝えたのか、と問うと
「お前はあれに姉の姿を重ねているだろう。」
姉の生き方を自然体でやってのける彼女が、本当は羨ましくて仕方なかったのだと気づいたのは、この時だった。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時