壁と語彙力 ページ10
笑顔に見惚れていたからか、それともはなっからこいつの一挙一動に気を取られていたからか、或いはその内どちらもか(どちらもに決まっている)。思うよりも余程時間は経っていたらしく。
「あ…そろそろ出なくっちゃ。」
名残り惜しげなその声にはたと気付いて、もうこんな時間になったのかと驚いた。
「うお、マジか。」
「ね、もうこんな…。」
わあ、と時計を確認して見開いた目。無防備にぽかんと開いた口。その華奢な手首を細腰もろとも引き寄せて、ぽってりと艶めく可憐な唇にキスを落とせたなら。
……いい加減自粛しろ。
つい先刻だって、うっかり頭を撫でてしまったんだ。辛抱が足りねぇ、バカヤロウ!
自戒だ、自戒。己にそう言い聞かせる。
「よし、帰るか。」
「うん。帰ろ。」
帰り道はそれぞれ別だが、駐車場までは同じだ。マネージャーを連絡先から呼び出し、これから帰るという旨を伝える。
「終わったか?」
「おっけぇ。」
間延びした甘い声、こてんと倒された細い首、小さな顔の近くには繊細な指で作られた控えめなOKのマーク。
俺は危うく直ぐ手前にある壁をブン殴りそうになった。
…そんなに可愛くOKのポーズを取らないでくれ。むやみやたらに可愛いと、その可愛いさを持て余してどうすれば良いか分からなくなるんだ。ほら見ろ語彙力なんてとっくに崩壊している。余りの可愛さに、俺は曖昧な笑顔しか返せない。
すんでの所で思い留まり、いざ出ようとドアノブに手を掛けたところで…俺は止まった。
「きたやま?」
後ろから、俺を呼ぶ戸惑いの声。
うん。
「待った。」
「っえ?」
ぱちくりと瞬きして、俺を見やる。
うん。
ちょっと、些かの問題が発生していた。
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久呂之(元:緋絽)(プロフ) - 和來さん» ありがとうございます(*´˘`*) 改稿の可能性もありますがちゃんと完結させたいと思っております。応援の言葉、励みになります(´⊃ω⊂`) (2019年9月29日 2時) (レス) id: 20569f8db5 (このIDを非表示/違反報告)
和來(プロフ) - このお話大好きです!更新される度にウハウハ言って読んでます!更新頑張ってください! (2018年4月22日 21時) (レス) id: 8f5aa5cad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:久呂之 | 作成日時:2018年2月12日 14時