顔を出す ページ16
空っぽのエレベーターに乗り込み、"俺ら"に相応しい距離を取る。地下の駐車場までは待った以上の時間がかかる。
壁に凭れかかり脱力する藤ヶ谷に、なんというか、そそられた。と、そこまで考えて「いっけねぇ」とやらしい考えを頭から追い出す。煩悩退散。
「あ、」
ドアが閉まって階数表示がされた頃、俺はあることを思い出した。
「何? 忘れものでもした?」
スマホに目を落としながら素っ気なく問うこいつの擬態には、クールキャラを保とうという努力が見えて感心する。
「いや、…ん?忘れ物、と言えば忘れ物なのか。」
「何それ。」
つい、とこちらを見やる怪訝そうな顔。眉間に皺を寄せてはいるがこれは、ただ本当に見当が付いていないだけである。
ていうか俺が思い出したのって、お前に関することなんだけどな。完全に忘れてるよな、コレ。
「"お疲れ様"って、言わなくて良かったの?」
「………………あっ。」
ぽかんと暫く呆けた顔をして。漸く思い出して、先程の俺と同じ様に声を漏らす。まるで目から鱗でも落ちた様な反応だ。
うん。やっぱお前、思考回路からしてどんくせぇのな。
暫しの間きょとんとしていたこいつだったが、恐らく自らの中で噛み砕く内に、何か引っ掛かることでもあったのだろうか。小さな顔にハテナが浮かぶ。
「言ってないっけ……? あれ…でもおれ、別におつかれって言うために残ったんじゃ、ない、し、」
考えながら喋っているために、ゆったりと舌足らずになる口調。結局、こうして二人きりになるとやっぱり顔を出してくる幼いこいつ。
まあ良いんだ。人通りの多い場所は既にクリアしたことだし。エレベーターのドッキリでしたー! とかなら完全にアウトだけど。マネから確認した限り、怪しい予定は無い。
いつもはちゃんと注意してるし、なんなら二人きりで乗ったりしない。
今日はイレギュラーだ。俺には映画が、あいつには舞台が。追い込みの中で唐突な二人だけの空間。
二人とも、なんだか気が抜けてる。
ま、事件とか起こんなきゃ監視カメラのデータを抉じ開けようとはならないはずだ。何より、もしモニターで監視する人がいたとして、多くの画面が連ねる中、くっ付きさえしなければ違和感を与えることもないだろう。
それでも最低限度の注意は払う。
その為に、俺らは一定の距離を保っている。
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久呂之(元:緋絽)(プロフ) - 和來さん» ありがとうございます(*´˘`*) 改稿の可能性もありますがちゃんと完結させたいと思っております。応援の言葉、励みになります(´⊃ω⊂`) (2019年9月29日 2時) (レス) id: 20569f8db5 (このIDを非表示/違反報告)
和來(プロフ) - このお話大好きです!更新される度にウハウハ言って読んでます!更新頑張ってください! (2018年4月22日 21時) (レス) id: 8f5aa5cad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:久呂之 | 作成日時:2018年2月12日 14時