鬼門 ページ13
エレベーターに乗るまでが関門だ、と俺は思う。
何しろこの階は人通りが多く、実際に本日も人が多い。仕事上関わる人も多い為、極力顔を覚えておくに越したことはない。更にこちらの顔は知れているので、話しかけられることも往々にしてある。
人並みの人見知りを開き直って克服した俺はともかく、ここ数年でかなり深刻なものを拗らせてしまった奴にとっては、なかなかに厄介な道なのだ。例えば今、俺の少し後ろを付いて来るこいつだとか。
「北山さん、藤ヶ谷さん、お疲れ様です。」
「あ、ありがとうございます。」
「お疲れ様です。次回もよろしくお願いします。」
すれ違い様の軽い挨拶に、律儀に礼を言う藤ヶ谷を横目に対応する。
「よろしくお願いします。」
「っあ…ええ、こちらこそ!」
俺の言葉に続いてよろしくお願いします、と言い顔を上げたこいつの笑顔に、ドギマギとする相手に会釈をしてさっさと切り上げた。そりゃあ至近距離で自分一人に、あんな綺麗な笑顔で微笑まれたらそうなってもしゃーないわなぁ、と少し理解はできるが、面白いわけでもないし、一々そんなんで立ち止まっていてはさっぱり進めなくなってしまう。
新しい仕事場や初対面の相手には最初、怖そうだの無愛想だのという印象を持たれやすいこいつだが、実際に触れ合えば、言葉を交わせば、男女問わず皆こいつを放って置けなくなる。
生真面目で誠実な態度と柔らかな物腰、見せる笑顔は初めの印象を裏切ってとびきり愛くるしく、実はドジっ子で懐けばいじられキャラにもなり、ちゃんと話せば面白い奴だと分かる。取り繕っても鈍臭い思考回路は天然ボケとして発揮する。
それに加え、押しに弱い優しい奴だから、とても流されやすかった。
だからほら、今もまた、別の奴に掛けられた引き止める声をにふいできず、あしらえず。仕事内容など全く関係無い話題でさえ、グループの面目を保つ為、失礼がない様にと、懸命に応答している。
そいつらはな、藤ヶ谷。
お前の笑顔が見たい、それだけなんだよ。
245人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
久呂之(元:緋絽)(プロフ) - 和來さん» ありがとうございます(*´˘`*) 改稿の可能性もありますがちゃんと完結させたいと思っております。応援の言葉、励みになります(´⊃ω⊂`) (2019年9月29日 2時) (レス) id: 20569f8db5 (このIDを非表示/違反報告)
和來(プロフ) - このお話大好きです!更新される度にウハウハ言って読んでます!更新頑張ってください! (2018年4月22日 21時) (レス) id: 8f5aa5cad2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:久呂之 | 作成日時:2018年2月12日 14時