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だ れ だ っ た っ け
そんな時。
迷い果てたその手を、誰かに握られた。
姿は見えない。
でも、握られた手の体温と、少し固い感触は本物だった。
別に、探し求めた何かへと手を引いて連れて行ってくれる訳でもなければ、進む方向も分からないままだ。
何も変わってなんかいないけど、ただ、そこにいる。
いてくれる。
——ひとりじゃ、ない。
それだけの事で、救われた。
いま、左手に触れたその温度だけが、ただひとつ縋れる道しるべだった。
＊
日が傾き始めてなお、目を覚さない無一郎。
その傍らに、熱にうなされた迷子の手をただ包み込む一人の姿があった。
触れたちいさな手から伝わる、いまだ高い体温。
発熱とは本来、体の免疫が雑菌などに抵抗することで起こる反応である。
今この小さな体の中で、彼を脅かす何かと懸命に戦っているのだろう。
それが何なのか、Aに知るすべはない。
それでも、繋いだこの手に意味が無いとは思わなかった。
何をするでも無く、ただ沈黙だけが場を包む。
やがて決心がついたようにAが口を開いた。
「ごめんね。全然頼りになれない未熟者で」
目を伏せて改めてカナエの言葉を噛み締める。
ふっと一呼吸おいてから、再び紡ぐ。
「でも、そっか。
お互い、はじめてなんだもんね、なにもかも。
……私は、まだまだ未熟で、至らない事だらけだけど。私も貴方も一人なんかじゃないから。これからも貴方と一緒に、成長していきたい。
絶対に、この手を離したりなんかしないから」
——太陽が緋く傾いて、カラスの鳴き声と共に家路につく
この世界のほとんどの人間にとって、なんて事はない夕暮れだ。
そんな短い刻の中。
ぎこちなく重ねたはずの、温度の違う手。
いつのまにか、固く握り合った手が。
混じり合ってぬるくなった体温が、確かにふたりを繋いだのだ。
.
夕暮れ一刻 ページ12
'
——————
——くらい、 暗い、 ただ昏い。
手を伸ばし、求めるほどに迷い込んでしまう、深く濃い霧の中。
どこかも何かも分からないただ一人の空間で。
何かを求めてもがき続けた。
“何か“
——何を？
探して求めたはずの物も、自分自身さえも見失って、分からなくなってしまった。
——ここはどこなんだろう。
——どうやってここに来たんだっけ。
——何がほしくて、知りたかったんだっけ。
深く、ふかく迷い込む
——僕は、俺、は ？
そんな時。
迷い果てたその手を、誰かに握られた。
姿は見えない。
でも、握られた手の体温と、少し固い感触は本物だった。
別に、探し求めた何かへと手を引いて連れて行ってくれる訳でもなければ、進む方向も分からないままだ。
何も変わってなんかいないけど、ただ、そこにいる。
いてくれる。
——ひとりじゃ、ない。
それだけの事で、救われた。
いま、左手に触れたその温度だけが、ただひとつ縋れる道しるべだった。
＊
日が傾き始めてなお、目を覚さない無一郎。
その傍らに、熱にうなされた迷子の手をただ包み込む一人の姿があった。
触れたちいさな手から伝わる、いまだ高い体温。
発熱とは本来、体の免疫が雑菌などに抵抗することで起こる反応である。
今この小さな体の中で、彼を脅かす何かと懸命に戦っているのだろう。
それが何なのか、Aに知るすべはない。
それでも、繋いだこの手に意味が無いとは思わなかった。
何をするでも無く、ただ沈黙だけが場を包む。
やがて決心がついたようにAが口を開いた。
「ごめんね。全然頼りになれない未熟者で」
目を伏せて改めてカナエの言葉を噛み締める。
ふっと一呼吸おいてから、再び紡ぐ。
「でも、そっか。
お互い、はじめてなんだもんね、なにもかも。
……私は、まだまだ未熟で、至らない事だらけだけど。私も貴方も一人なんかじゃないから。これからも貴方と一緒に、成長していきたい。
絶対に、この手を離したりなんかしないから」
——太陽が緋く傾いて、カラスの鳴き声と共に家路につく
この世界のほとんどの人間にとって、なんて事はない夕暮れだ。
そんな短い刻の中。
ぎこちなく重ねたはずの、温度の違う手。
いつのまにか、固く握り合った手が。
混じり合ってぬるくなった体温が、確かにふたりを繋いだのだ。
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続く
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作者名：しろクロ | 作成日時：2020年12月11日 17時
