らしく ページ11
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「うん、呼吸も大分落ち着いてきたわね」
『良かった…カナエちゃん、朝早くからごめんなさい。ありがとうございます」
「いいのよぉ、いつでも呼んで。それにAの処置が適切だったから、私は大した事はしてないわ」
えらいえらい、と優しく頭を撫でられた。今日も今日とて花が舞うように可憐だ。
——そんな彼女の纏う雰囲気からか、ふとこぼれてしまった。
『…ありがとう、ございます。……こんな事くらいしか、できないから」
きょとん、という擬音が似合うまあるい藤色。
「あら、Aはとっても可愛くって賢い子よ? 何かあった?」
一度こぼれた言葉は取り消せない。
昨日から渦巻いていた心が溢れてくる。
『…本当にそんな事、なくて。
昨日も、危うくその子に怪我させちゃうところだった。お館様から、直々に預かっているのに。 私が、未熟者で』
一部始終を話していたら段々と目頭が熱くなってきて、いよいよ惨めだ。
失敗の尻拭いも一人でできない。
「あらあら、それはびっくりしたわね。
大丈夫よぉ、人間は怪我して生きる術を学ぶんだから」
『っでもぉ』
「よしよし、大丈夫。ちゃんと立派にやれてるわ。 包丁が飛んだのは確かにびっくりだったけど、お互いはじめてだったんだもの。
Aなら、何だって大丈夫よ」
張り詰めていた心がほどけて、小さな子供みたいにわんわん泣いた
*
『あの…時透くんの看病で呼んだのに、私の世話までみてもらっちゃって……ほんとに…」
一度泣いて全て吐き出して、完全に正気に戻ってしまった…
(なにやってんだかもー!!)
人前で、あんなに声をあげてわんわんと……うぅ…
ひとりだったらきっとまた枕に顔をうずめて悶えているところだ。 顔から湯気が出そう。
でも、さっきまでのようにぐるぐるとした悩み方ではなくなっている。
「いーいのよぉ、そんなの! …Aはいつまでも、私の可愛い可愛い妹分だもの。
また気軽に頼ってちょうだい!」
最後にもう一度、さらりと髪を撫でられる。
『……ありがとう、カナエちゃん』
「うん。 Aなりに、しっかり考えて行動すれば、それはきっと伝わるわ。がんばりなさい。
じゃあ、そろそろ行くわね」
最後に、「ふたりで美味しいごはんが作れるようになったら、ぜひ私にもごちそうしてねー」っと残して、カナエちゃんは山をおりていった。
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作者名:しろクロ | 作成日時:2020年12月11日 17時