丗 ページ32
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「私は、如何すれば佳いンでしょう?」
隣で俯き続ける彼女の頭を柄にも合わず優しく撫でる。
サラリと梳いた髪が俺の手から零れ落ちていく。
『さァ、な』
頭に置いていた自身の手をするりと頬に滑らせる。
海を見詰めていた視線を彼女に移す。
其処で初めて彼女の姿を見た。
先刻迄指を通していた柔らかな茶髪は少しだけ乱れ、血をどろりと溶かした様な赤色に、闇に溶けて仕舞いそうな黒色の大きな双眸は此方を見上げていた。
其の瞳は涙で潤んで耀き、其れに魅せられた様に俺の動きは止まる。
真っ白で滑らかな頬は徐々に紅く染まる。
添えた手は振り払われる事は無かったが、視線を外され、残念と云う気持ちが頭をよぎる。
「判って、います。訊いたッて意味が無い事を」
「でも、もう判らないンです」
そう云って目を伏せ、小さく笑う。
彼女は無意味だと判った上で俺に訊いているのだ。
何とも莫迦で不器用な奴なのだろう。
『じゃあ、距離を置け』
其れなら俺が導いてやらないと。
何故か放っておけない気がしてならない。
『後は、そうだなァ。肩の力を抜け。手前は気ィ張りすぎなンだよ。そうしねぇと壊れちまうぜ』
こうやって触れているのに少しでも力を入れたら壊れて仕舞いそうな危うさ、儚さ。
屹度彼女は其の事に気付いていない。
『なァ、佳ければこれからも____』
だから俺は云った。
そう告げた後の彼女は花が咲いた様な笑顔で笑った。
初めて見た其の笑顔は年相応で無邪気で、思わず俺の心を締め付けた。
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「其れにしても、相ッ変わらずだね。吃驚するぐらいの本を読む遅さ。懐かしいよ」
『うぐッ…』
痛い処を突かれて仕舞った。
昔の私は本を開けば一度、眠気が襲う。
其れに何とか耐えて一行読み始めると、頭が回る様な錯覚に陥るから、忙しなく行き交う人や街を眺めて心を落ち着かせる。
一ペェジ読むと耳に届くのは、丁度夕餉時に鳴らされる街の放送。
其の為一冊読むのにはかなりの時間を有する。
今は大分善くはなってきているのだけれど、其れでも十分に遅い。
今読んでいる本だって通い始めた初日と全く変わってはおらず、読んでいる量も大した変化は無いのだ。
『本を読むのは大好きなンですけど…』
嫌われているンでしょうか、と力無く笑う私。
「そうかもしれないね」
そう云って、笑い乍ら私の背をあくまで優しく叩く彼には昔と変わらない温かさが有った。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時