第８話 ページ9
一つの身体に、一つの記憶。仮に複数の記憶を持てば、心の平安は乱れがちになる。勇太が天界の記憶を辿るのは、その出生に加え自身が望んだからに他ならない。
「引き摺られない、で……」
それだけ言って、また玄樹は意識を手放す。
「……ごめん」
やがて、顔を伏せていた勇太が言った。
「記憶の制御には、慣れたつもりなんだけど。あの時のこと、思い出すと……どっちが【自分】なのか分からなくなるんだよ」
それは、複数の記憶を持つ弊害でもあって。
多くは、無意識の自衛をするのだけれど。
「たとえば、映画で見たのかなとか。どこかで読んだ気がする、とか。変わった夢だなとか」
そして、再び車は走り出す。
「でも、それで良いんだと思う。俺も、あの後どうなったのかは良く覚えてなくて……たぶん、神殿の方針で操作されたんじゃないかな。事が大きすぎて、公にはできなくて。ただ、その日から俺は玄樹と会えなくなった」
「会えなく、って……まさか」
「違う。いや、違わない……のかもしれない」
傷そのものは治癒できるレベルで。命を落とすほどではなかった、けれど。
「魔王の直系に抗う力はなくて。いずれ魔族に変わるという意味ではね。でも、そうなったら天界では生きられなくなる。だから叔母上は、ご自身の時間を贖罪に捧げた。少しでも進行を遅らせて玄樹が天界人のまま過ごせるように。でも、限界は来る。さっきの傷の位置に羽根はある。たぶん、その壊死が影響したんだ」
「……俺、なんだ」
今、この瞬間も苦しめているのは。
「そうじゃない、紫耀」
ミラー越しに、勇太は言った。
「さっき言ってただろ。引き摺られるなって。どっちが【自分】か、分からなくなりかけると教えてくれる。そんなに消耗してても。だから行くんだ。あっちの世界に影響されるなら、逆だってあるはずだからね」
そんなことが、果たして可能なのだろうか。
「今、できることをしようって。玄樹が言ったんだ。向こうで確定してることは変えられないとしても、そこから先はまだ間に合うだろって笑うんだよ」
過ぎた出来事に塗り潰される未来を、望んだ訳ではなくて。歩いていく先は自分の手で作ることも、できるはずだから。
「……次、止まったら運転変わるよ」
一緒に、行こう。正しいか、正しくないか。答えを出すのは今ではないから。
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黒那智(プロフ) - ななみさん» こんばんは、ななみさん♪いつもコメントありがとうございます★完全新作ではなく、いずれ書くつもりだった番外的な続編になります。話数にもよりますが、以前のれんいわカテゴリーに載せる予定なので今少し(いつだよ)お待ちくださいませ。 (2020年10月4日 19時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - 新作楽しみです！楽しみがある幸せ^_^黒那智さん、待っております。 (2020年10月4日 16時) (レス) id: 6b92244ddf (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - けいこさん» はじめまして、コメントありがとうございます(^_^)まだ書ききれてない部分もあって、ちょっと説明くさいパートが続いてますが、気長にお付き合いいただければ嬉しいです★また遊びに来てくださいね。 (2019年12月8日 3時) (レス) id: bd09ac7e96 (このIDを非表示/違反報告)
けいこ(プロフ) - この不思議なお話好きです。凄く作り込まれていて色々納得！ (2019年12月8日 1時) (レス) id: 5ebf2863bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒那智 | 作成日時：2019年9月22日 16時
