月輪エンゲージ【心の継承】 ページ49
窓から、心地好い風。うたた寝をする玄樹の傍らにレンがいる。そんな２人に足音もなく、近付く影が一つ。
「執務は如何なさいました？」
飛び上がりそうになりながらも、振り返れば予想に違わず老臣の顔があった。
「いやあの、ちょっと息抜きをやな」
「時期が来ねば、赤子は産まれますまい」
「せやけど、動くかもしれへんやろ」
言い訳がましく続けるレンに、溜息を返す。
「ゆっくり休ませて差し上げるのが肝要かと」
「……なんかあったら、すぐ呼んでくれ」
不承不承、執務に戻る背中を見送って呟く。
「何の為に闇の欠片を授けておられるのやら」
玄樹の、左薬指にはレンの闇が宿っている。
故に、執務を抜ける必要は本来ないのだった。
「……ん、誰……？」
気配を感じてか、玄樹が目を覚まし身動く。
「お休みを妨げ、申し訳ございません」
一礼して、老臣は言った。
「しかしながら、暮れ時の風はお身体を冷やします。我が主の為にも、ご自愛いただきたく」
「そう、だよね……ごめんね、ありがとう」
無意識のうち、下腹に手を当てるのは言葉の幾らかがそこで眠る命へと向けているからだ。
「なんか、不思議な気持ち。新しく産まれくる中に、自分の知ってる魂が宿ってるんだもの」
と、玄樹の瞳が老臣のそれを捉えた。
「あの、失礼だったらごめんなさい。この子がいるせいか、気になってることがあるんです」
「どうぞ、何なりと」
「貴方の、片方は闇……つまり、人の血を引いているということですよね？」
「ご指摘の通りでございます。ただ、我が母は極めて稀有でして。当初、魂だけが界を渡った後に器がついて参りやがて私を授かりました」
魔族と、人の間にである。けれど。
「幸い、血溜まりと闇に恵まれたがゆえ人の子にしては重宝されまして。母も安堵したのか、界渡りの道標になるべく、人界に戻りました」
「御自分の意志で？そんなことが」
「当初、魂だけ渡ってきたのが理由かと。故に器は人界にございますが、時の進みがこちらと異なり朽ちぬよう、結界にて過ごしておる由。ただ、先だって玄樹様方とお会いし道標の役を終えても良かろうと、魂が伝えて参りました」
それは、器の死を意味する。それでも。
「ですが、お二人が先代の眠りを守ったように標としての想いは広く生き続けておりますよ」
そう言って、満足げに彼は笑ったのだった。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話＋後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます！次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます！ (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問＆コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒那智 | 作成日時：2019年5月1日 12時
