第2話 ページ3
召喚した命を、レンは自室へ運んだ。数々の疑問を質す為である。臣下に任せるのが常との意見も分からなくはない。けれど。
「俺の客人やからな」
そう言って、人払いをした。理由は、ある。
まず確かめたかったのは、身体の状態だった。いささか気はひけたが、首筋から鎖骨にかけての咬み傷に触れてみる。
「子供、か?」
通常、魔族は呪を介して主従の契約を行う。従者は仕える主人を定められるが、同時に守護される。咬み傷で代用するのは、低位の魔族が多用する契約とされ守護の力も弱く、好まれない。ただ、稀に力の制御が充分でない幼い魔族が必要に迫られ行うこともあった。
「傷も古いし、牙と牙の間隔が……ない……」
成人の牙とは異なる特徴。恐らく、契約する側の能力が足りずに完全体になり得なかったのだ。ならば、象徴である羽根が見当たらないのも納得がいく。あるいはそれらしき痕なら、肉芽として残っているのだろうか。
「……うぅ、ん……」
寝台で、それは身動ぎ。薄赤い瞳が現れた。
「気ぃ付いたか?」
「ここは……魔界?」
「分かるんやな、そういうの」
で、あれば。やはり天界から来たのだろう。天界とは異なる空気を感じたからこその疑問。
「……僕を喚んだのは、貴方ですか」
「そうや。けど、魔族に見えへんのやろ?」
漆黒の双眼など。召喚ができる高位の魔族であろうはずがない。誰もが、そう思うはずで。
「半分、人間やから。こういう見た目やねん」
人界に生きた母親が、どういった経緯で魔界へ足を踏み入れたかは聞かされていない。だが先代魔王との間に子を為した。それが自分だ。
「けど、魔族は魔族やで?」
天界と魔界の力関係は、同等とされている。だが、特別な力を持たない人界の評価は低い。
「僕を、殺さないの?」
「なんでそうなるねん!せっかく喚んだのに」
「だ、って……」
身を起こし、うつむいた背を撫でる。やはり羽根らしき感触はない。けれど、隆起がある。
「昔は、ここに羽根があったんやな」
「壊死、したから。今は傷だけ」
レンは、手を止めた。
「そう、か。辛かったな」
痛み以上に、身体の一部が死に絶えてゆく。それを目の当たりにしたのだ。何も感じなかったはずはない。
……ぽろり、と。見る者の心を喰い物にすると伝わる、婬魔の瞳から零れるものがあった。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話+後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます!次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます! (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問&コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒那智 | 作成日時:2019年5月1日 12時