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第16話 ページ17

ゆっくりと、玉座を降りる。自由にならない身体を、臣下に気付かれぬよう手を伸ばして。
「え、あっ……」
 同時に足元の感覚が失われ、玄樹は気付く。左右を固めていた無機質な瞳が、自分を連れてきた仮面の男の姿が、見えなくなったことに。切り離したのだ。ショウが、その力によって。
「……生きていてくれて、ありがとう」
 他者を排斥する異空間でなければ叶わない、感謝の言葉。そんな自由さえ今はないけれど。
「会えて、良かった」
「……うん」
 会いたかった。玄樹にはその理由があった。伝えなければならない言葉と、感情。それは。
一度会ったきり、だったけれど。
「ずっと一緒に過ごしたような気になってた。
あの方から、聞いてたから……ショウのこと」
「聞いてた?」
「天帝の妹君……ショウの、お母さんだよ」
 長く、感情が乏しくなっていた瞳が揺れた。
「傷を負って、内側から身体が変わってくのを受け止めきれなくて……それを癒して下さって。自然に馴染むまではって、何度もお会いして。僕がそうなったのは自分に責任があるからって聞かされたけど、でもそれだけじゃないの」
 手を伸ばす。その為に、ここへ来たのだ。
「その癒しを受けるべきは、僕じゃなかった」
 かつて、その背中には羽根があった。白く、柔らかな……母親の肖像画で最も印象的だった、それと同じ天界人の象徴が玄樹にはあって。
「あの方は、僕を通してショウを見てたんだ」
 天界人の血を引いていても、まだ制御が充分でない幼いショウにとって天界の大気は毒そのもので。薄らぐ視界に飛び込んできた、象徴は生への渇望でしかなくて。食い付いた、首筋。
「なんで、だよ」
 当然の、怨みも恐れも玄樹からは感じない。
命こそ助かっていても、苦しませた筈なのに。
「あの、羽根も……なくなって。俺のせいだろ?心配して近づいてきたのを良いことに喰らって自分だけ助かろうとしたから、それで」
 結果的には命を奪うに至らず、それは仮契約となったけれど。天界人としては生きられなくなった。しかも、魔族としても充分ではない。
「そんなこと、誰も望んでないよ」
 二つの世界の血を持つが故の苦痛も、柘榴の双眼による犠牲も。追い詰める為ではなくて。
「だから、あの方が本当に伝えて欲しがってた心を届けに来たの」
 その、想いがすべてだった。
 

 

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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話+後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます!次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます! (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問&コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒那智 | 作成日時:2019年5月1日 12時

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