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第21話 ページ22

ひとつ、ふたつ、と。玄樹は話した。
 幼い日、不幸な出会い方をした赤い瞳の少年のことを。彼の母親を接する中で思ったこと。彼女が天寿を全うしたことで、界渡りを望んでここへ来たこと。かの少年、ショウに会おうとした理由を。そして、目的を果たせたことも。
「けど、ホンマに良かったんか?」
「何が?」
 用意されていた部屋に戻り、話し込むうちに辺りの光彩は弱まっていて。
「召喚した俺が言うのも、おかしい話やけど。天界に、心残りはなかったんか?」
 一度、応じてしまえば元に戻れる保証はないのに。もっとも、半ば変貌した身に天界の事情は身体への負担も含め優しくはなかったのか。
「ない、訳じゃないの。でも、後悔してない」
 互いの顔が見えづらい明度の中で。
「あの方の心を伝えられたし、それに」
「それに?」
「天界人でもない、魔族とも言い切れない僕をレンはそのまま受け入れてくれたから……その」
 少し、うつむきながら。
「ショウの所じゃなくて、ここに戻りたくて」
「……顔、見せて」
 頬へ添える手に、熱が伝わる。
「そう思ってくれて、ありがとう。それから、お前の気持ちも聞かんとキツイ言い方したり」
「ううん。でも、あの……近い、よ?」
「嫌か?」
「そ、そうじゃなくて」
 穏やかで、心地好くて安堵してしまうから。
「嫌やなかったら、やねんけど」
 レンの手のひらに、生まれる黒い輪。それは彼の一部、気の具現化に他ならなかった。
「手、出して。左な」
 差し出した指にそれは収まってゆく。だが、質感はない。ただ、温もりがあるだけだ。
「人界では主人が所有物に嵌めてた名残りらしいし、あんまり好きちゃうんやけど。その指、心臓と繋がってるから。何かあってもすぐ分かるし、せやから……お守り代わり、ていうか……」
 ふと、辺りを見回す。人払いは、してある。結界も張ってある。それでも落ち着かなくて。
「魔王言うてもイマイチ弱いし、抜けてるし、それでも……俺が守りたい大事なものの一つに、なってくれる?俺と……契約、してくれる?」
「うん……はい」
 脈打つ心臓がうるさくて。目の前で聞いた声が意味を成すまで、一呼吸かかった。
「……あの、契約の意味……分かってるやんな?」
 言葉の代わりにキスを送る。指に宿る、気を通して伝わる、どこまでも純粋な了承だった。
 


 

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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話+後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます!次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます! (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問&コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒那智 | 作成日時:2019年5月1日 12時

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