Toy Box

家に帰ろう　後編 ページ31

【まぁ、全部は無理かもだけど】
　誰かが、誰もが手を引こうとするはず。
【お前がそうしたいって思ったら、そこから】
　夢は、夢で終わらず形になって。現実の世界に姿を現し始める。何度でも、行きつ戻りつ。
【帰りたいなら、帰って来いよ】
　くしゃり、と髪をかき回す細く長い指。
【「もぉ、やめてってば!」】
「起きろって。風邪ひくから」
「……え、……」
　間近で、優しい目が見つめている。
「岸くん……」
　髪をかき回す指は、相変わらずで。夢と現実の狭間が分からないほど、同じで。
「……ただいま」
　寝ぼけているように聞こえたかもしれない。それで、良かった。心を体が置き去りにする、今はまだ。一人で歩けない今は、ゆっくり夢を連れてくるから。おかえり、の言葉はあと少し先で聞くから。気持ちだけを、背中に乗せて。
「なんで、ただいま?」
　夢で交わした言葉を知らない、現実の優太は不思議そうにしているけれど。説明はしない。
素直になんか、なってやらない。
「家の気分だったから」
　それが、優太のことだなんて。その腕に帰りたかったなんて、絶対言わない……今日。特別な今日、ほんの５分でも10分でも時間を重ねたいと思ってくれたのが嬉しかったのに。あっさり薬の作用で眠ってしまった自分が悔しいから。
「家、かぁ」
　リラックスできたならいいか、と見当違いの納得をする優太の手を引いて。
「おめでとう、って」
　まだ、言えていなかった言葉と……それから。
「記念日、二人だけの。今、作ろっか」
「……え、」
「あのね、5/23はね」
　伝えたかった言葉の代わりに。記念日を免罪符にして。気持ちで触れる、キスをした。

　
　

　

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