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真依さんの暖かな手が左胸にある。心臓は、早く本物に触れて欲しくて、忙しなく活動を始めた。
このまま薄っぺらい胸板に手を入れて、心臓を抉り出してくれたら、俺はどんなに幸せだろうか。愚かな俺は先まで真依さんと繋がることばかりを考えていたが、そんなことはどうだっていいのかもしれない。
真依さんは何も言わなかった。黙って俺の瞳を見て、何かを見定めている。ツララは既に溶けていた。
真依さんは俺の考えていることが分かるのだろうか。それとも女は男より人を見る目に富んでいるのかもしれない。邪な思考が跡形もなく消え去った途端、彼女の心が開いた気がした。
真依さんは異様なほど落ち着いていた。これから起こるであろう出来事に臆さず、甘受する姿勢であった。それを了承と受け取った俺は、彼女に顔を近付ける。
自分勝手な解釈だが拒まないということは、真依さんの思考は俺の予想通りなのだろう。
真依さんが目を瞑ったのを見て、少し顔を傾ける。
空いている右手で真依さんの顔を支えた。真依さんの頬は陶器と言っても過言ではないほどすべすべしていた。肌荒れなんて言葉は真依さんの世界にはないのかもしれない。
息がかからないように呼吸を浅く、細くして、更に近付く。目標までほんの数センチ。
「伏黒ー?」
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作者名:しりお | 作成日時:2021年11月27日 20時