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もう一度、名を口にした。すると真依さんはあからさまに不愉快そうな表情で俺を睨んだ。
突如、俺は体が石のように固まる。神の前で罪を白日の下に晒された大罪人が磔にされた気分だ。無論ここで言う大罪人とは紛れもない俺のことである。
ツララが手や足に刺さり、全く動かない。間髪入れずに心臓も貫かれそうで冷や汗が止まらない。
これこそ畏敬なのだろうか。間違っていると分かっていても、本能がこれは"畏敬"だと言い張って聞かない。
真依さんは何も言わず、俺の頬に平手打ちをした。叩かれた勢いで横を向く。左頬が酷く痛むが、今、心骨で感じている恐怖心よりはまだ耐えられる。
俺は恐る恐る顔を正面に戻した。
真依さんは潤んだ瞳で俺を見据えていた。その眼にはまるで生気がなく、死んだ魚のようである。
そこでようやく自分が冒した頓馬の重大さを理解した。彼女は、俺と同じように、俺のことを信愛していたのだ。その愛が何回か壊れかけても、まがりになりにも修復し直して、再び俺を好いてくれたのだ。
だというのに、俺はいとも簡単に彼女を突き放した。自ら影へ引き入れたくせに、俺は突っぱねたのだ。そして目の前で吐いた。これが如何に彼女の心を傷付けたのか、想像は容易いだろう。
「気色悪い」
真依さんは冷淡な調子でそう言った。
故に俺の心臓が潰された。ツララによってではない。彼女自身の手で握り潰されたのだ。俺の黒い血は一切飛び散ることなく、影を作っていく。
彼女は俺に背を向け、どこかへ去ろうとする。その時、俺は偶然見てはいけないものを目にしてしまった。
彼女の頼りない背中からは悪魔の顔が浮かび上がっていたのだ。ソイツは俺を嘲笑し、決死の思いで紡いできた糸を食べながら、俺の首を落とした。
景色が斜めになって下がっていく。ごとんっと頭が床に転がり落ちる音を聞きながら、悪魔と目を合わせる。その瞳は慈悲の欠片もなく、残酷という単語が相応しい。
薄れていく意識の中で俺は思った、首ではなく、手を落としてくれたなら、俺は幾分か救われただろうと。
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作者名:しりお | 作成日時:2021年11月27日 20時