23 ページ23
やっと気分が完全に回復したのは山を降りてから十分ほど経った頃だ。
二度もお世話になっている医務室で、先生から貰ったミネラルウォーターをちびちびと飲みながら安静にしていると、不思議と心は落ち着いてくる。
「元気になった?」
「おう。心配させて悪かった。しかもあんな汚ぇモン見せて……」
「俺は全然気にしてねーよ!」
様子を見に来た虎杖によると、結果がはっきりしなかったため引き分け扱いになったらしい。恐れていた敗北はなんとか免れたようだ。俺はほっとひと息吐き、座っていた椅子にもたれかかった。
「じゃあ俺、そろそろ行かなきゃ」
「まだなんかあったか? 今日はこれで終わりじゃ……」
「東堂が俺を出せって騒いでるらしいから戻らなきゃ暴れそうで」
「……お前も大変だな」
哀れみを込めた視線を送ると、「そんな顔しないでくれます!?」と軽く怒られた。そう言って虎杖は医務室を後にした。
ゲロを吐いた友人とここまで気さくに話せるのだ、東堂に気に入られるのは当たり前なのかもしれない。……あのパイナップル頭のことだから全く違う理由でお気に入りになった可能性もあるな。
あの訓練は俺達のチームで最後だったから、今頃京都校の面々は帰る支度をしているのだろう。
「……真依さん」
ふと口から漏れた。
己を見失うほど追い求めていた存在が俺から離れようとしているのに、別れの時間が近いことに今の今まで気付かなかった。こんな信じられない話が他にあるだろうか。俺は恋という一種の執着に触発されて席を立った。
また、あの糸が垂れ下がる前に。
そう祈りながら医務室の扉に手をかけた刹那、扉は何もせずとも勝手に動いた。
目の前には俺の求めていた彼女が立っている。だのに素直に喜ぶことができないのは、真依さんが大量のツララを構えていたからである。
「真依さん……」
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しりお | 作成日時:2021年11月27日 20時