旧神の失墜 ページ15
五条には分かっていた。彼女が禪院から追い出されたことを。そして、
「お前、養子だよな?」
「……だったら何」
彼女が禪院の血を継いでいないことを。
術式開示の日から勘づいていたのである。相伝でも投射呪法でもなかった。彼女の収斂呪術は落ちゆく家系の珍しいものであった。
「平塚A」
平塚家の相伝術式、収斂呪術。禪院の元分家。
「……それは過去の私」
「過去なんかどうでもいい。真偽を確めただけだ」
養子だから嘲笑うのではない。禪院本家は彼女のことなどどうでもいいのに、ゴミの価値にもならない忠誠心を抱いているのが堪らなく滑稽で、奇異で、憐れだから嘲るのだ。
「平塚、お前さ、遊ばれてんだよ。あの服もそう。なんで無理やり結婚させたか教えてやる。お前は禪院にとって要らない存在だから。追い出されたんだよ。つまりお払い箱。分かる? きっとあのおっさん、繁栄のためとかくっだらねー嘘吐いてんだろうなぁ」
五条は饒舌になって彼女を言葉で殴った。こうすることで自分へ関心が向くと思ったからだ。人を傷付ける言葉は想像以上の効力を持つ。
その証拠に彼女は左目を丸くして五条を見ている。他人に対する興味を持たなかった彼女が、だ。
五条は悦に浸る。自分に背中を見せて、脇目も振らず前進して、周りのことなど気にもしなかった彼女が青緑の瞳で今五条のことだけを見ている。
その瞳が黒さを増しても五条は笑うのを止めなかった。むしろ彼女の思考が自分でいっぱいになっていることを嬉々として喜んだ。
「一生を捧げる相手が禪院に前宮……。とんだ災難だな。まぁでも安心しろ、俺が、」
「消えて」
「……あ?」
「消えてって言ってるの!!!」
彼女の悲鳴のような声が五条の耳をつんざく。五条は豆鉄砲を食らった鳩のように動かなくなった。彼女の大声はこれが初めてではない。故に止まってしまった。またあの花火が___。
『避けて!』
『五条くん!!』
『私がどうなろうと誰も困らないから』
心臓が熱くなった。否、心臓だけではない。五条の全身を、彼女の赤い花火が突き刺していく。五条の手のひらをいつかの血液が汚していた。
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作者名:しりお | 作成日時:2021年11月15日 11時