メイド服と六眼持ち ページ2
一年の教室に男女が二人。
「お前、何その格好?」
正午を過ぎた頃、男は堂々と教室の扉を開けて入ってきた。その第一声がこれである。これが入学初日に遅刻した人の態度だろうか。夜蛾が居れば叱るところだが、生憎ここには誰もいない。
だがツッコミたくなる気持ちも分かる。なぜなら話しかけた女は高専の制服ではなく、メイド服を着用しているからだ。しかも部屋の中には二人しか居ないというのに我関せずといった様子で本を読んでいる。
ある程度大きな声を発したため、聞こえなかったわけではない。メイド服の彼女は故意的に男を無視したのだ。無論男は怒りを覚える。
無視された。こんな弱そうな奴に。舐めた格好してる奴に。
生まれて初めての屈辱感に顔を歪ませる。
大股で彼女に近付き、肩をぐいっと強く自分の方へ引っ張った。
「無視すんな」
彼女はようやっと本から目を離し、長い前髪で少しばかり隠れている眼で男を見る。
高専の制服、綺麗な白髪、黒の丸いサングラス、190cm以上の長身、無礼な態度。この男を彼女は知っている。
「六眼持ちの五条悟」
彼女は独り言のようにポツリと呟いた。
この男は、五条家が生み出した最高傑作。一年生にして特級呪術師の神童。六眼と無下限呪術を併せ持つ、呪術界の中心人物。良くも悪くも、五条悟は有名である。一般家庭からの出でなければ、存知しているのが当たり前。
「……俺のこと知ってんだ」
五条は嬉しそうに口角を上げる。
この俺を知らない奴なんて、居るわけないよな。
初めに無視されたとは言え、存在を認知されていて不快な気分になる者は居ない。すっかり上機嫌になった五条は、彼女の名も聞かずに「お前、何してんの? 他の奴らは?」と馴れ馴れしく接した。
「読書。他の人は術式を使うためにグラウンドへ向かった」
「なんでお前は行かねぇんだよ。しかもつまんねー本読んでんな」
五条は彼女から奪い取った本の裏表紙に目を通す。内容紹介を読んだだけなのに「つまらない」と嘲笑い、彼女の机の上に投げた。
彼女はそれを目線で追うが、特に感情を乱すことなく五条と会話を続ける。
「場所が分からないから」
「ふーん。で、それいつ始まんの?」
「あと二分後」
「は? 間に合わねぇじゃん」
五条はガシガシと後頭部を雑に掻き、はぁっと溜め息を吐いた。もう既に遅刻したくせにと思う人はここには居ない。
「おい立て」
「……?」
「早くしろ。行くぞ」
57人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しりお | 作成日時:2021年11月15日 11時