一〇 ページ14
「あぁ、これ、」
言って、私は、さっき落としてしまった野花を拾い上げた。
それを持って部屋に入り、襖を閉める。
横たわる時透くんの近くに行って腰を下ろし、改めて口を開いた。
「これは“
あっ、ごめんね、お金がないもんで。そこら辺の花だけど、お見舞いに と思って」
私は記憶力が良かったからか、幼い頃に図鑑で見た花を、未だにいくつか覚えている。
お母さん
「よめな……」と、時透くんは小さく呟いた。
それだけで、もう……！ なんと可愛いことか。
くぅぅ と悶えそうになるのを必死で堪えていたとき、ハッと思い出した。
急いで
……あんまり長く話していると、病み上がりの時透くんは疲れてしまう。
だから、面会の時間は限られているのだ。
「……じゃあ、そろそろ帰るね。また来るよ」
嫁菜を持って立ち上がり、襖へ向かって歩く。
襖を開けようとしたら、時透くんが小さめの声で告げた。
「たぶん僕、明日になったら君のこと忘れてる」
……極わずかに、不安が混じった声だった。
「だーいじょぶ！」と、不安をかき消すようにニッコリ笑って振り返る。
「覚えてもらうまで、何度だって名乗るから！
――じゃっ、AA、帰ります！」
ダメ押しで、最後に 自分の名前を言ってから、私は部屋を後にした。
．
．
その日から、私がお見舞いに行くときに、時透くんが起きていることが増えた。
もちろん、寝てる日だってあったので、何日か開けて会うことも多く、そのためか、まだ名前を覚えてもらってないけれど。
でも。
名前を覚えてくれなくても、毎日 会いに来る奴がいるなぁ、って程度には認識してほしかった。
だから、私は毎日、お見舞いに野花を1輪だけ持っていって、時透くんが寝てる日は それを枕元に置いて帰り、起きている日は、その花の名前を教えたりしていた。
もっと色々な花を持っていきたいし教えたいしで、いつか図鑑を買いに行こうと考えている。
しかし、そうこうしている間に季節は移ろい、花の少ない季節がやって来た。
明日は花の代わりに何を持っていこうか、と、頭を悩ませる日々が始まった。
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黒渦クレナ(プロフ) - 時桜ミクさん» ありがとうございます！ 嬉しいです！ 文字打つの遅いですが、頑張ります！ (2020年3月8日 13時) (
レス) id: 232aa570e5 (このIDを非表示/違反報告)
時桜ミク - 続き楽しみです！頑張ってください！読みます！ (2020年3月8日 10時) (レス) id: 0faa6f99b8 (このIDを非表示/違反報告)
黒渦クレナ(プロフ) - 眞由さん» ありがとうございます！ まさか、わかってくださる方がいらっしゃるとは…！ すごく嬉しいです(泣)。更新 頑張ります！ (2020年3月7日 22時) (レス) id: 232aa570e5 (このIDを非表示/違反報告)
眞由 - とても続きが気になります。夢主ちゃんの気持ちがとても分かります。更新頑張ってください。 (2020年3月7日 21時) (レス) id: 9566cb15d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒渦クレナ | 作成日時：2020年3月7日 21時
