時計台の鐘が鳴れば―3― (ページ13)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:1,614 hit

―3 ページ13

「あ…」

パットは、どういうわけか顔を真っ赤にして目線を逸らしてしまう。
自分でもなぜ赤くなったか分からず、事情を知らない使いの男がさして心配していなさそうに「どうしました」と尋ねてくるが、何でもないとかぶりを振る。
けれど、こちらにどんどん近づいてくる足音が聞こえてきて、続けてまた「大丈夫ですか？」と似たような趣旨の言葉を投げかけられる。
ぎくりと心臓を跳ね上げて、見れば、すぐ目の前に件の少女がいた。
心の底から心配しているらしく、眉を下げ、上目遣いにしてパットの様子を伺っている。
これでまたパットはさらに赤くなったが、少女の後ろにいた男性を見てひゅっと息を吸った。

眼光を地獄の底の魔王のように赤く光らせ(男性は碧眼であるがパットにはそう見えたらしい)、これでもかと眉間に皺を寄せてこちらを睨みに睨んでいる。
忿怒の感情がなんとか人の形を保っているような姿からは恐怖しか感じられない。
相手が子どもだろうと容赦なしの視線にパットは完全に縮み上がってしまい、「ひょぇええええっ！」と実に情けない悲鳴を響かせてしまった。

人々が指をさして笑おうとしたが、すぐに使いが制止し叫んだ。

「お前ら、底辺の身分の分際で誰を笑っている！このお方はプリケット家長男、パット・プリケット様であらせられるぞ！」

その言葉を聞いた途端、あれほど笑顔だった人々はさっと顔を青くして黙り、すぐさま手を後ろに隠す。
そして我先にと家の中に逃げるため走り出した。
逃げ惑う人々に驚いた少女は、いち早く男性に抱きかかえる形で守られる。
再び使いを含めたパットに睨みをきかせれば、パットは「わあああ！」と人々同様逃げ出してしまった。
使いも慌てて後を追おうとしたが、その前に、嫌にニタニタと笑いながら少女らに話しかける。

「おいお前たち。その芸と容姿に免じて、特別にラスキン船の乗船と芸の披露を許可しよう」

そう言って、羊皮紙を取り出して少女に押し付ける。

「あそこに飛行船があるだろう。次の鐘が鳴る頃には発船する、それまでにこれを持って乗れ。分かったな？」

こうして使いはパットを追いかけていった。

残された2人は、渡された紙と互いの顔を交互に見る。
やがて少女の方は困り顔で、しかし嬉しそうに男性に話しかけた。

「まさかあっちから来てくれるなんて…。手間が省けたね、ヘンリー」

男性は声こそ出さなかったが、きっとこう返事しただろう。
そうだな、A、と。