時計台の鐘が鳴れば―3― (ページ12)

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年齢層は様々で男女の差もなかったが、全員みすぼらしい身なりと、表情が明るいことに関しては共通している。
彼らは何かを取り囲むように立っており、その何かに視線が釘付けだった。
一瞬貧民らと混じることに抵抗を感じたが、好奇心に負けてパットは人だかりに近づき、まだ低い身長を精一杯背伸びさせ正体を伺った。

人だかりの中心には、2人の人間がいた。
1人は、一言ではとても言い表せないほどの美貌を持つ男性。
黒い燕尾服に黒いシルクハット、はたまた黒い眼帯と手袋に全身黒尽くめだったが、唯一露出した顔はまるで作り物のように端麗な顔立ちをしていて、肌は陶器のごとく白い。
亜麻色の髪と青い隻眼が闇夜の中光る宝石みたく、見つめられようものなら二度と目を離せなくなりそうだ。
なるほど、女性陣が頬を染めてうっとりと眺めているのも納得である。

もう1人は、これまた可愛らしい顔をした少女。
ふわふわとウエーブがかった茶の巻き毛、そして温かみのある栗色の瞳。
小豆色の上質な生地を使ったらしいドレスは、同色の日除け帽も相まって少女の魅力をより一層引き立てている。
先の男性が人形だとすれば彼女はぬいぐるみだ。
愛らしく柔らかそうで、誰からも好かれるような存在と言ったところか。

そんな2人が何をしているかというと。

「「おおおお！」」
「凄い、何もないところから人形がいっぱい…！」
「帽子から鳩が出てきたぞ！」
「どうなってんだ！？」

少女が持っていたトランクからは、その大きさに反して目一杯の人形やブリキのおもちゃが。
男性のシルクハットを杖で叩けば、何もなかったはずの中から白い鳩が勢いよく飛び出て羽ばたいていった。
見物人らが歓声と驚愕の声を上げている間にも、2人は次々に摩訶不思議なことをやってのける。
薄っぺらい赤と緑の紙をただくしゃりと手で丸めて開けば、1輪の真紅の薔薇が。
トランプを空中にばら撒き細い針で突き刺せば、見事にキングだけを貫いてみせる。
始めは1枚だけだった銀貨が手をかざす度に2枚、3枚と増えていき、最後には手から溢れるほどになっていた。
ありえないことの連続で人々は戸惑っているものの、その表情は明るい笑顔を浮かべている。

すべてやりきったらしく2人が上品に一礼すれば、辺りは割れんばかりの拍手に包まれた。

開いた口を間抜けに開きっぱなしにしていたパットも慌てて拍手する。
人一倍大きな拍手に気づいた少女がこちらに気づき、視線がぱちりと合った。